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農業と福祉の親和性 これから求められる「農福連携」

全国障害者就労支援ローカルネットワーク研修会in福島 特別収録

ここでは、8月初旬、ソーシャルスクエア内郷で開かれた「全国障害者就労支援ローカルネットワーク研修会in福島」において、全国で就労支援に関わる方々からお話頂いた内容を抜粋してお送り致します。それぞれの地域で就労支援に関わる人たちの生の声をご覧下さい。

 

農業と福祉の親和性 これから求められる「農福連携」

関根 考迪さん

社会福祉法人こころん(福島県泉崎村)

 

私たちは、農業に特化した社会福祉法人です。事業はとても幅広いです。畑のほか、養鶏所や直売所、加工場、さらにはグループホームも持っています。大きく分けると生産部門、加工部門、販売部門、下請け業務部門という4つの部門があります。下請け部門では、例えば県南地方にランドセルの工場がありまして、その工場は大手の百貨店が販売するランドセルを生産しているのですが、工場のなかでできない作業があるんですね、そうした業務が下請け的にやってくることがあります。皆さん1ミリの狂いもなく縫製していきます。工場ができない仕事を私たちが支えているということでもあるんです。

生産は「こころんファーム」で行います。定員10名で、主に精神障害の方が利用していますが、その半分は発達障害の方。就労移行とB型をミックスして、適材適所で彼らを配置するというスタイルをとっています。栽培方法は無農薬栽培、または無化学肥料で作ります。ということは、除草剤なども使いませんから、日々雑草を抜かないといけない。特に今の時期は本当に暑い。とても大変な農法なんです。

面積は1.5ヘクタール。東京ドーム1.5個くらいでしょうか。ハウスも2棟ありますし、品目は50種類くらい育てています。ですから、かなり規格外のものも出てきます。味もよいので捨てるのは勿体ない、ということで、乾燥機を導入して乾燥野菜、ドライフルーツなども製造しています。このように、自社農園の運営と施設外就労を組み合わせつつ、さらにこれは福島ならではですが、放射性物質のセシウムの影響がありますので、「堆肥寄せ」をした土と、しない土でどのような変化が出るのか、国の機関にサンプルを出すといったような仕事もしています。

―細分化された「農作業」が自信を生み出していく

農業のなかで生まれる作業というのは、細分化すると100くらいになるでしょうか。直接関係のある作業だけでなく、農業機械の整備、ビニールハウスの立て方などもあります。非常に細かいんですね。ですから、種まきから収穫、納品まで、すべて細かく役割分担しながら、利用者の適性にあった仕事を割り振りしています。「農業のなかにはこんな仕事があるのか」という新たな発見に繋がりますし、そのような仕事を通じて評価されることで、自分の自信につながっていく。農業の仕事は本当に細かく、そして多様です。

しかし、安全な仕事ばかりではありません。例えば、雑草刈り機は非常に危ない。ミスすれば大きなケガにつながってしまいます。ですので、利用者にはもちろん特別安全講習を受けさせます。障害者でもそれは同じです。安全第一です。実は、労災のナンバーワンが農業と言われています。トラクターなど機械に巻き込まれて大きなケガを負ったり、草刈り中にブレードに触ってしまってケガをしたり、夏の暑い時期に熱中症になったりと、実は危険と隣り合わせの仕事なんですね。ですから安全第一を常に確認しながら行っています。

それから技術をしっかり身につけなければおいしい野菜を育てることはできません。わたしたちはソーシャルワーカーですから、技術の習得に関しては最大限に連携をします。例えば、福島県の有機農業推進室の方、周囲の農家さんたち、色々な方々と連携し、協力して頂きながら業務にあたっています。もう種を蒔いたほうがいいぞとか、そろそろ収穫だとか、皆さん本当に親身になって教えてくれるんですね。そのように地域の中に農業の拠点を作っていく。そのような連携が非常に大事だと考えています。

続いて、実際の利用者の実例を紹介させて下さい。まずはAさん。ADHDで、なかなか1つの仕事に集中できないという悩みがありました。確かに、農場でも、単調な仕事をやらせると、他の人が10やるところで3くらいしかできないんですね。それが、前の職場の離職の原因にもなっていました。これは適性が合っていないということです。実はAさんは数字に強く、コンピューターの操作もできました。ですので、納品するときにラベルを打ったりするときなど、コンピューターの操作が的確にできる。先ほど、農業の作業数はとても多いという話をしましたが、こうして単純作業ではなく変化のある仕事を組み合わせていけば、かならず適性が合う仕事が見つかります。

現在では、Aさんは市内の大手スーパーの成果部門で活躍しています。もう勤め始めて4年目になっていて、責任のある立場でバリバリ仕事しています。売り場のレイアウトやポップの制作、さらには人材育成もやっているそうです。しかし、働き始めてすべてが順風満帆だったわけではありません。「もう辞めたい」と思った時に、サポートできる体制づくり、具体的には、こころんが駆け込み寺として機能できるかも重要です。農作業で培ったチームワークがあるので、たまに戻ってきて、仲間に相談して、そして「もう一度がんばろう」と思って戻っていく。そんな継続支援のあり方も重要ではないかと思っています。

もう1つの事例です。Bさんは気分変調性障害の方で、特に睡眠障害が酷い方でした。朝目覚めると石のようになってしまって起きられないというんですね。そこで、朝7時に起きて8時に出勤というスタイルを辞めました。なぜか朝5時頃に一端目覚めてしまうというので、そのタイミングで出勤して、会社の休憩所を使うように言ったんです。こちらで起こしてあげるからと。そうして最初はリズムづくりに注力しました。

睡眠時間が不規則でしたから、最初は生気ゼロ。眼の下にクマがべっとりといった感じでした。しかし、農作業というのは疲れますから、もうヘロヘロになるわけです。そして疲れれば勝手に寝ます。もう寝るしかないくらい疲れます。そして、寝る前には食べるしかない。食べて、そして寝て、起きて、働くというリズムが少しずつできてくるんですね。最初はまったく食べない人だったんですが、リズムを整えることで自信をもってもらって、3年かかりましたが、夢だった家具に関わる仕事につくことができました。

―福祉における農業の有効性

このように、農業というのは有効性があるんです。まずは生活のリズムづくり。良い疲労感を得ることで、食事と睡眠が規則的になっていきます。さらに、やはり農作業はキツいですので、忍耐力がつくという面もあります。もちろん、その辛さが1人では精神的に参ってしまいますが、仲間がいるということも重要です。みんなで乗り越えられるという体験が、彼らの中に根付いていく。チームワークが生まれてくるということです。これは孤独にならないということにつながってくる。社会に出た後も、駆け込み寺的に機能するのは、こうしたチームワークがあるからこそなんですね。

あとは、農作業というのは五感を総動員しますから、仕事中には他のことを考えているヒマなんてありません。思い込み、考えすぎ、いろいろなものが振り払われていくんです。もう1つの効果は、前段でも話しましたが、多くの作業があり、自分に適した仕事があるということです。自分の適性にあった仕事が見つかることで、自信に繫がります。さらに、予期しないトラブルへの適応性が磨けるのが良いという声もありました。農業は天気勝負です。どれだけ手塩にかけて育てていても、台風が来て被害を受けたり、頑張って立てたビニールハウスが壊れてしまったり。しかし誰も責められない。諦めるべきことは諦め、そして修復できるものは修復する。農業では、そのような気持ちの切り替えがないとやってられません。しかしこれは社会もそうだと思います。

最後になりますが、やはり農業ですから、技術が定着しないと良い作物はできませんし、良い作物ができなければ売り上げに繫がりません。売り上げに繫がらなければ工賃にも反映されないということです。「就労移行支援」の面では、良い人材をどんどん社会に送り出す喜びもありますが、農業福祉法人として持続していくためには「B型事業所」としての組織の力もつけていかなければなりません。人材育成をしながら、B型に通ってくる、知的障害を持った人たちの育成にも、より力を入れていきたいと思っています。

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NPO法人ソーシャルデザインワークスが運営する障害福祉サービス店舗。 社会と現在の自分を結ぶための広場を創造することをコンセプトに、一人でも多くの生きにくさを抱える方々の心に栄養を、その先にある活力ある人生に貢献している。