OLYMPUS DIGITAL CAMERA
CREW's VOICE

小さく多様な成功体験を積み重ねる

私たちが今対峙している問題に対して出し得る答えというのは、あくまで「今の時点で望ましいとされること」に過ぎません。目の前に障がいに苦しんでいる人がいるとして、その方の「今」から判断して支援することしかできない、ということです。

しかし、皆さんにはそれぞれ生きてきた人生や時間があります。小さいときに自信を喪失してしまうような出来事があったのかもしれないし、受けてきた「しつけ」に何らかの問題があったのかもしれない。喪失を何で補うのか、自己肯定できないときにどのような体験をしてもらえれば良いのか、それらはすべて私たちが「今」から手探りで探し出していくしかありません。

人の性格や人生がそれぞれ違うように、その方にフィットする支援やカリキュラムというのもマニュアル化できません。言い換えれば、今やっているカリキュラムが、その人にとって正しいのか、どんな影響を与えていくのか、それすらもわからないということです。その時にベストだと思うことをやっていくしかない。その「答えの出なさ」に日々悩んでいます。

一方で、支援を続ける中でわかってきたこともあります。それは、障がいに悩む方をフォローできる人たちのなかで、小さな成功体験を積み重ねていくことの重要性です。いきなり大きな社会に放り出して、その社会のルールのなかで評価するのではなく、まずは、障害を理解し、適切なフォローができる人たちのなかで成功体験を積み、人の関わりを徐々に大きくしながら社会にフィットしていくことが重要だ、ということです。

そうなっていくために必要なのが、既存のコミュニティとは別のコミュニティ、別の場を作っていくこと。つまり、障害に関わる専門家だけではない環境や、これまでの価値評価軸とは別の軸を持つ小さな社会を作っていくということです。そうすることで多様な価値が持ち込まれ、小さな成功体験を積み重ねることができるだけでなく、当事者以外の、受け入れる地域社会の側にもプラスに働くと思います。

福祉の制度的な問題を指摘して、それを変えるべきだと声をあげることも重要かもしれませんが、受け入れる側の姿勢が変わらなければ、また「なんでそんなことができないんだ」と、狭苦しい価値基準で人を評価することになる。受け入れる私たちの姿勢が変われば、特別な訓練なんて必要なくなるんです。一見矛盾するように見えますが、訓練のカリキュラムを考えつつ、訓練の必要のない地域を作っていかなければいけないと思っています。

―発達心理との出会い

ソフトバンクに在籍していた時、私は渋谷の店舗にある手話カウンターで働いていました。4年間勤めていて痛感したことは、障害を持つ方の多くが、「おれはダメだから、これでいいんだ」と諦めてしまうことでした。もしかしたら、昔から「お前は何もできない」と言われ続けてきたのかもしれません。

それで教育を学び始め、「発達心理」について関心を持つようになりました。影響を受けたのがエリクソンです。エリクソンの理論によれば、人間性を構築していくうえで必要な課題を適切な段階で得ることができないと、喪失したまま成長してしまい、他人への不信感や劣等感を持ち続けてしまうのだそうです。でも、そうだとしたら、「おれはダメだ」と思ってしまうその心は、本人のせいではなく「環境のせい」なんです。

エリクソンは、「自分にもできた」と思った時のエネルギーがいかに大きいかも教えてくれました。その達成感や満足感が自己肯定感を生み、やがてそれが他人を受け入れることにも繋がり、社会のなかで自分の場所を作り出すことができるようになる。そして、その「できた」を経験するには、人の関わりがとても重要だということです。

何によって自己肯定感を得られるかは人それぞれです。ごちゃ混ぜの価値観のなかで多様な人たちとの関わりを通して、小さな成功体験を積み重ねていく。そうすることで、社会の受容する力が高まっていくのではないでしょうか。

そういう地域になったら、障害を持った人たちだけでなく、私たちがみんな心地よく暮らせる社会になっていくはずです。だから、そういう社会を作っていくことを面白いと思える人たちと、まずは小さなコミュニティを作り、小さく多様な成功体験を積み重ねていきたいと思っています。

SOCIALSQUARE
SOCIALSQUARE
NPO法人ソーシャルデザインワークスが運営する障害福祉サービス店舗。 社会と現在の自分を結ぶための広場を創造することをコンセプトに、一人でも多くの生きにくさを抱える方々の心に栄養を、その先にある活力ある人生に貢献している。