ぼく自身が諦めないこと

2019年12月入社、ソーシャルスクエア 水前寺店で自立訓練(生活支援)の支援員として働く山口瑞稀をご紹介。プライベートでは一児の父でもある山口が、日々どんなことを念頭において対人支援の仕事をしているのか、インタビューに答えてもらいました。

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山口 瑞稀(やまぐち・みずき)

SOCIALSQUARE 水前寺店/スクエアクルー

ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していく「Crew’s Voice(クルーズボイス)」のコーナーです。

今回は2019年12月入社、ソーシャルスクエア 水前寺店自立訓練(生活支援)の支援員として働く山口瑞稀をご紹介。プライベートでは一児の父でもある山口が、日々どんなことを念頭において対人支援の仕事をしているのか、インタビューに答えてもらいました。

※掲載内容は取材当時のものです

2021年の12月にソーシャルデザインワークスに入職しました。現在はソーシャルスクエア 水前寺店で自立訓練(生活訓練)の支援クルーとして働いています。自立訓練サービスへ通所されている方の支援計画を立てたり、スクエアで提供するカリキュラムを実施したりしています。

他にはスクエア内で行う工賃業務も担当になっています。工賃業務とは簡単に言うと、スクエアの中という福祉的な環境で行った作業や業務に応じて「工賃」という形で、作業に応じたお金を利用メンバーさんが得られる仕組みです。スクエアの中にいながら働く体験ができたり、お金を稼ぐ喜びを知ってもらうための機会として提供しています。いろいろな作業を工賃業務として実施していて、例えばチラシの折り込み作業や野菜の検品、袋詰めのような軽作業を始め、パソコンを使って音声付き電子図書を作成する業務などをやっています。自分たちから業者さんや団体さんに営業をかけてお仕事を受注してくるので、今後もっと種類を増やしていきたいと思っています。

工賃業務を実施していることで、利用メンバーさんの通所頻度が上がったり、モチベーションを持って自発的に作業して頂けたりと、お金の面以外のメリットがたくさんあります。支援する側も、業務を通して作業の難易度や業種に応じて就労能力のアセスメント(評価)ができたりするので、これからも積極的に営業をかけていろいろな種類のお仕事を増やしていきたいなと思っています。

 

福祉の世界へ飛び込んで

元々、自分が出会った先生に恵まれたなという思いがあって、中学校の教員を目指していました。家族の事情で進学を諦めざるを得なかったので進路としては断念してしまいましたが、いろいろな仕事をしながら自分の今後について考えていたような状況です。

ちょうど結婚した時に義理の母が精神訪問看護の仕事をしていて、障害福祉の仕事について知ったのはこの頃ですね。正直、今までの福祉のイメージとしては閉鎖的なイメージを持っていたんですが熊本の福祉業界は少し違っていて、元々憧れていた教員の「人生の可能性を広げる」ような役割に近いことができるんじゃないかなと思い始めました。実際、今の仕事も障がいや病気のある方の人生の可能性や選択肢がなるべく広がるように支援をしています。ソーシャルデザインワークス(当法人)のことも、そのあたりで知りました。

自分自身がコンビニでアルバイトをしていた時に、常連で来てくださっていたお客さんが倒れたことがあったんですね。高齢の男性でおそらく何か病気や障害がある方で歩行器を使ってご来店されていました。とっさに助けに出ていったのは入ったばかりの外国人スタッフ。彼らなんの躊躇いもなく助けるための行動をとることができたのに、自分も含め周りにいた日本人は行動に移せなかった。日本の、他人に対して遠慮しちゃう感じとか、障がいや病気に対する嫌煙する感じとか、自分の中に実感や課題意識としてあったんですね。

「そういう文化だから」と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、障がいや病気のある方への直接の支援だけじゃなくて、その文化も変えていきたいみたいなメッセージを、法人の発信の中から感じたんです。

先輩クルーの声が載っている、まさに今取材されているこの「クルーズボイス」の記事は全部読みましたし、特に今泉(理事)のインタビューに全く同じ問題意識が書かれていたんです。

福祉側に立っているぼくですら理解がまだまだだと思わされたことが以前ありました。コンビニで買い物して出る時、ちょうど白杖を持った視覚障害の人が店に入って来ようとして、私はその人に危険が及ばないかどうか見守っていたんです。すると、たぶん(いわき市にある)東日本国際大の留学生だと思うんですけど、なんのためらいもなく声をかけ、腕を取って一緒に入っていったんです。それを目の当たりにした時に、自分はまだまだ理解が浅いと痛感しました。

ちょうど熊本エリアで支援員の求人が出ていたタイミングで、福祉の経験や資格があるわけでもない自分が採用されるのは難しいなと思いつつ、ほとんどダメ元で応募しました(笑)

でもここで応募しておかなければずっと後悔する。そんな覚悟で臨んだように記憶しています。面接ではそんな熱い想いを語りました。そんなこんなでソーシャルデザインワークスに入職し、今に至るという感じですね。

僕自身が諦めないこと

支援員としてまだまだな面があって、最初はすごく劣等感を感じていました。特に担当している自立訓練(生活訓練)の支援は、例えば就職することとか「客観的なゴール」がありません。2年間という限られた時間の中でどれだけ自分が利用者さんの力になれるのか、毎日毎日考えています。もっと知識や経験が豊富だったら、先輩たちのような支援アイディアがスッと出てくるんじゃないかと、最初は劣等感というか、力不足だなと感じる時が多くありました。そんな時は、支援クルーチームで相談させてもらってその方にとって「最善」が何か色々とアイディアを出し合うようにしています。

もちろん仕事なので苦労も多いですが、やりがいは本当にたくさんあるなと思っています。印象に残っているのはそろそろ自立訓練のサービス期間が終了となる利用メンバーさんから「この2年が人生の中で一番楽しかった」と言って貰えた時は、本当に嬉しかったですね。日々の頑張りを見ているからこそ、利用メンバーさんの変化や世界の広がりに気づけるのは支援員ならではのやりがいだと思っています。

その方の可能性を極力広げて、もっと自分らしく過ごしてもらうことっていうのは毎日意識していることですね。ぼくは「そっと寄り添う」「目線を合わせる」みたいなイメージを支援には持っていて、これは最初に志していた教育の道とは違う部分かなと思います。まずは、ぼくたちみたいな支援者、伴走者と一緒に過ごすことが、その方にとって「安心」になるように心がけています。

思ったように状態が好転しない、うまくいかないことも、もちろん多いです。それは支援者にとっても利用メンバーさん自身にとってもそうだと思います。僕が限られた期間の中で、利用メンバーさん自身にできることは少ない。すべて「良く変えられる」とはおこがましくて思いません。ただ、それは諦めてしまうこととは違います。まずは「ぼく自身が諦めないこと」を大事にしています。何かこうすればいいのかな、この方がいいよな、と思ったことがあってもこれが最善だと思い込まずに、いろいろな角度から検証する。第三者の視点や考えも視野に入れてみる。そういう点検をし続けるのが、思考停止に陥らずにひとを支援していける一つの考え方になるのかなと思っています。

具体的な例で言うと、担当している工賃業務の営業は企業が外注する作業をスクエアで受注できるように営業をかけていく形が多いですが「福祉事業所の作業だから費用は安く」「そもそも福祉事業所には発注できない」とか、正直いろいろな声を聞くことが多いです。でもそこで、ぼくも諦めてしまってはこの良くない慣習は変わらないですよね。そこでどうにかできないか、粘り強く交渉しちゃうんですよ。諦められないので。

実際に交渉して変わってくれることもあれば、そのまま受注契約できないこともあります。もちろんこれは社会や企業が福祉の足元を見る例として氷山の一角でしょうし、ぼく一人が粘ったところで社会がぐるんと変わるなんて思ってないけど、ちょっとずつでも身近なところから抵抗して変えていきたいなと思っています。もちろんスクエアでの工賃業務の品質をキープして「遜色なくちゃんと働けるんだよ」という証明し続けていくこともひとつの使命だと思います。

今後の展望

まだ熊本に来て1年なので、地域との関わりはまだまだできていない部分なのかなと感じています。スクエアを起点にして、学校や高齢者施設とか地域とのネットワークもつくっていきたいなと思っています。せっかく法人で「ごちゃまぜ」活動をやっているので、世代や障がいの有無に関わらず、フラットに交流していけるような場作りをしていければなと思っています。

とはいえコロナでなかなか外に出られない状況もあって、自分も子供を連れてどこかにというのもままならないので早く皆さんと交流できるようになって欲しいなと思っています。

PROFILE
山口 瑞稀
山口 瑞稀

山口 瑞稀(やまぐち・みずき)
SOCIALSQUARE 水前寺店
スクエアクルー

1999年生まれ。宮崎県宮崎市出身。
未来の可能性を広げ、人とのかかわりを持つ仕事を志望していたとき、偶然ソーシャルデザインワークスと出会う。
誰もが明るく楽しめる、諦めのない社会を目指し入社。趣味は旧車で、手や顔を真っ黒にしながら笑っている変な休日を過ごす日もあったりする。

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