支援 とデザインを語る

小松 知寛 ソーシャルスクエアいわき店 ソーシャルコーディネーター/デザイナー ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で、障害福祉に関わるスタッフは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているの […]

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小松 知寛

ソーシャルスクエアいわき店 ソーシャルコーディネーター/デザイナー

ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で、障害福祉に関わるスタッフは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。クルーにインタビューをして、その声を紹介していくのが「Crew’s Voice」のコーナーです。
今回紹介するのはソーシャルスクエアいわき店、そして西宮店の2か所の立ち上げに関わったクルー、小松知寛へのインタビュー。かつて建築やデザインを学んできた小松には、今回も「支援 × デザイン」について話を聞いています。現場での実践を重ね、少しずつそのデザイン論が浮かび上がってきました。

−ビジョンはあっても、それで選択肢を狭めない

いわき店から西宮店に異動になり1年と少し、立ち上げに関わってきました。最初はずっと外回りでした。最初はなかなかいい反応が得られませんでしたが、少しずつ信頼関係ができてくると、そこからは加速度的に勢いがついてきたような気がします。
西宮の雰囲気が変わったのは、中よりも外との信頼関係ができてからですね。現地の自治体の方や支援団体、相談窓口などを回りながら、自分たちが何をしようとしているのかを細かく説明したりするうち、少しずつ相談を寄せてもらえるようになり、利用者が増え、やるべきことがどんどんできてくる、というような感じで。いわき店のオープンより、格段にスタートアップに近い時期に関わることができて、いい経験になりました。
いわき同様、西宮でも意識したのが選択肢を狭めないということでした。これをやりたいって明確に掲げてしまうと、その道だけを提示することになり、選択肢を狭めてしまうこともあります。ビジョンが明確だからこそ、選択肢が狭まらないように。それを意識してきました。

選択肢を増やすというのは、もともと学生時代の研究テーマでもあるんです。そこでよく言われていたことなんですが、QOLは選択の数と質で決まるという話があります。例えば震災後に作られた仮設住宅。居場所が家の中にしかないという状況より、家の前にベンチがある方がいいし、集会所があればもっと違うし、さらに外に出てカフェがあると全然違うんです。人と会うこともできるし、会わないこともできるわけです。
ただ、そういうデザインの研究が、経済と結びつかないといけないと個人的には思っていて。経済と結びつけられないと、助成金や補助金が切れるタイミングで事業が終わったりしてしまって継続性が生まれないんです。その意味で、ソーシャルスクエアがやっていることは、今まで働けなかった方が働くようになることで経済が回るということでもあって。そこにデザインはいかに関わるべきかってことも考えるようにしています。

−支援とデザイン

デザインによって、何かの価値が広く伝わり、多くの人たちに使ってもらえるようになることは大事です。ただ、それは決して見た目が格好いいとかそういうことだけではなくて。もちろん、ダサい選択肢しかないより、格好いいもの、スタイリッシュなものがあった方がいいというレベルでもデザインは大事なのですが、むしろ、デザインによって整理する、そして、整理することがだれかの心地よさとかにつながり、それが小さな経済を生んでいく、というような流れを作ることが大事だと考えています。
例えば、カリキュラムの中で「自分と向き合い、自分を語る」というものがあるとします。そこで配布される回答用紙がただの真っ白な紙だとしたら、何を書いていいかわからない人も多くて言葉が出てきません。そんな時に、回答用紙をゼロからデザインし直すことで利用者が紙に記入しやすくなり、それによって福祉の質が上がることがあります。それがデザインだと思います。

将来的にはそうした「支援ツール」を一般化させて販売したら面白いなと思っているんです。障害って、何かが劣っているとか、そういうことではなく、むしろ、社会の中に潜在的に存在している「生きにくさ」を先取りしているという意味で、そこから生まれるものは、そのほかの人たちを救うような力がある。つまり、障害のある人たちと考えたプロダクツは、障害のない人たちにとっても魅力ある商品になるはずだと。
可能性がありそうだなと思っているものの一つに家計簿があります。家計簿って毎月の収入や支出を見る、つまり「全体」を把握しないといけないものですよね。ところが、発達障害の方の中には、全体を見るのが不得意な人がいます。「毎月30万円使える」と言われても、全体が見渡せないので、オーバーしてしまったりするんです。でも反対に、「毎日1万円使える」という管理の仕方であれば明確になり、ちゃんと家計の管理ができる。
そういう方からすると、一般的な、毎月ごとに管理する家計簿は使いにくく、自立して家計を管理する生活が送りにくくなってしまう。でも、そこで「あなたの収入なら1日いくら使えるよ」というようなことが視覚的にわかる家計簿があれば、その人は家計を管理できるようになり、生活の自立にもつながります。
発達障害ではなくても、「全体ではなく個別で見た方がわかりやすい」という人は多いはずです。するとその家計簿は、「家計を管理するのが不得意な人」にも受け入れられるはず。つまり、支援とデザインが結びつくことで、社会の中にある生きにくさを可視化し、それを解決するためのヒントを提示してくれるわけです。そういう商品なら、売れるとも思うんですよね。そういう支援の現場の中から生まれるものにデザインをプラスしていく。そういう「支援×デザイン」にとても興味があるんです。

−徹底して個人を追求すると、社会性が立ち現れる

アプローチは、全体からではなく個人からアプローチします。それが「支援×デザイン」のキモかもしれません。建築の分野でも、「個人を徹底して追求していくと、どこかで公共性を帯びてくる」というような話がちょくちょく出てきます。それと似た話かもしれませんね。
今の公共性というと、「みんなが心地いいもの」になりがちで、つまりそれは平均ってことなんですが、支援の場合は、個人にアプローチする。そして、それをとことん追求していった先に公共性が集まってくるというか。だれか一人の個人を突き詰めたら社会につながった、というアプローチの方が面白いと思うようになりました。
「ごちゃまぜ」ってそういうことなんだろうなと。均一の色ではなく、モザイクのように、そもそもの色は異なっている。
誰かが集まったり暮らしたりする場所だけではなくて、関係性を構築していくことも建築なんだと思います。その意味で、自分が学んできた建築は今につながっているし、福祉に関わることで、それがより「個人から発するもの」になってきているように感じます。
徹底して個人に向き合うところから、結果的に何かしらのプロダクツができて、それが社会性を帯びていく。そんなサービスや商品が作れたら、社会は少しずつごちゃまぜになっていくんじゃないでしょうか。自分でも、色々と勉強しながら掘り下げていきたいと思います。

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