大事なことは、知ること、そして体験すること
今回紹介するのは、入社半年ながら、コンディショニングトレーナーとして、法人内外のイベントでも大活躍する藤木泰寛。いわき市平上荒川にオープンした「ソーシャルスクエア スポーツ」では、新たにライフキネティックの導入などにも関わっています。藤木の思考をたどることで、「コンディショニングと支援」という新しい福祉の回路が生まれてきました。
藤木 泰寛
SOCIALSQUARE Sports ソーシャルコーディネーター/柔道整復師
ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していく「Crew’s Voice」のコーナーです。
今回紹介するのは、入社半年ながら、コンディショニングトレーナーとして、法人内外のイベントでも大活躍する藤木泰寛。いわき市平上荒川にオープンした「ソーシャルスクエア スポーツ」では、新たにライフキネティックの導入などにも関わっています。藤木の思考をたどることで、「コンディショニングと支援」という新しい福祉の回路が生まれてきました。
−生活に入らないと健康は作れない
ここまで半年、本当にあっという間でした。これまでの記憶が薄れるぐらい充実していたということかもしれません。入社前にイメージしていた「ごちゃまぜ」の活動も、ある程度できてきているんじゃないかと思います。もともとぼくは「障害福祉」をするためにこの法人に来たというより、ぼくがこれまで突き詰めて考えて来た「健康」というものを、社会に対して「ごちゃまぜ」に提供したいと考えて法人に来た面が強いので、ごちゃまぜイベントやタブロイドの発行、情報発信など、色々な活動に関わることができて充実しています。ちょうど先日も、市内で地域包括に関わる多職種連携の会の皆さんに「ライフキネティック」の講習会を開いたところです。
ぼくはもともと接骨院、デイサービスで柔道整復師の仕事をしてきました。利用する皆さんの状態を良くするのが仕事ですから、なんとか良くしてあげたい、治してあげたいという気持ちで取り組んで来ました。ところが、治ったはずの方が、またすぐ同じ箇所を痛めて戻って来てしまったり、治療が終わって家での暮らしが始まると、また同じような症状が出てきてしまう、その繰り返しになってしまうことに少し歯がゆさを感じていたんです。
要介護状態の方ですと、介護の状態になる前に戻すのはなかなか難しくなってしまいます。そこで、本来は治療を繰り返すのではなく予防の領域、中国医学では「未病」といって、まだ症状としてははっきり現れていないけれども、病気の一歩手前という考えがありますが、予防に取り組まないといけないと感じるようになりました。つまり、病院や施設に来る前、生活の部分に入り込まないと、ぼくが考えている「健康」の状態にその人を持っていけないんです。
それに、柔道整復師業界全体が「マッサージ屋」化しているようにも見えました。保険を使えるので、大した怪我じゃないのにとにかく自分の治療院に呼び込もうとする。治ろうと治るまいと、患者さんが通ってくれれば保険によって代金も支払われます。もちろん、適正な治療をしているところがほとんどだと思いますが、社会保障費が減っているのに接骨院は増えている。本来は、怪我をする前、症状が出る前にこそ健康があるのに、治療院を成り立たせるためには、健康じゃない人が多い方がいいことになってしまう。そのジレンマは常にありました。
ぼくはいわきの出身で、同級生がすでにソーシャルデザインワークスで働いていたということもあって、「ごちゃまぜ」のイベントを知っていました。なので、その「ごちゃまぜ」にぼくが入ることで、もう少し、利用者さんや地域の皆さんの暮らしに近づいて、そこから「予防」や「健康」に介入することができるんじゃないかと考えたんです。ごちゃまぜに関わる人から、じわじわといわきに健康が広がっていく。そんなことをイメージしていました。
−考えながら動く、ライフキネティック
今、力を入れているのが「ライフキネティック」です。これは、普段は使ってなかったところを活性化させるもので、脳トレとトレーニングが組み合わさったようなプログラムです。ドイツが発祥で、サッカーのドイツ代表チームのトレーニングに取り入れられたりもしています。ゲームの要素が強いのですごく楽しいんですが、ストレス解消にもなり、集中力も増すと言われていて、落ち着きがない子たちにも集中力が身についたりと、色々な効果があるとされています。
知らず知らずのうちに体を動かすので、じんわり汗をかくような運動量になるでしょうか。頭もスッキリしますし、これならスクエア内のカリキュラムにも使えるし、地域の多様な人たちと時間を共有するごちゃまぜイベントでも使えるかなと思ったんです。対象年齢も4歳以上なら誰でもできますし、おじいちゃん、おばあちゃんたちに対する脳トレとしても活用できます。
もちろん、ソーシャルスクエアは障害福祉の事業所なので色々な仕事があるわけですが、その中でも今までの経験が生きている気がしますね。治療院には「問診」があります。つまり「傾聴」です。じっくりと患者さんの話を聞いて、状態を考えていく、そういう経験は今の支援にも生きている気がします。
と同時に、当事者に近くなった分、やはり生きにくさを抱えている人の、その生きにくさの大きさや重さのようなものを感じる機会が増えました。こういう生きにくさがあったんだと、生まれて初めて理解するようなものもあります。しかし、そこで思うのは、やはり社会の受け取り方次第だということです。まだまだ障害について知らないという方が多く、固いイメージで取り囲まれているような感じですね。
−障害を取り巻く「イメージ」
自立訓練をやっている中で意識しているのは、基本的に肯定してあげること。今まで、家庭や職場で否定されて来ている人が多いからです。生きにくさって、ご本人の特性に由来しているものが多いので、しょうがない部分があります。それなのに「お前はできない」と周囲に決めつけられてしまっているんです。それを社会や周囲の人たちがゆるく受け止めることができたら、こんなことにはならなかった気がします。障害のある人が社会に合わせるのではなく、社会の側が合わせるべき部分が大きいように感じています。
そのイメージを打破するために大事なことは、知ること、そして体験することだと思います。学校教育って、「健常」と「障害」を分けてしまうので、知る機会がとにかく少ないですよね。だから、こういう障害があるんだって気づけるような場も生まれないんです。けれど、そういう人たちに対して「意識を持ちなさい」というのも違う気がしていて。ゆるいイベントでいいと思うんです。そこで楽しく面白く関わってもらうことで、気づいたら障害のある人が周囲にいたことに気づく。そのくらいの熱量でいいんじゃないかと思います。
そういうイメージを打破するためにぼくができるのは、一緒に体を動かすことです。だから早くこの「ソーシャルスクエアスポーツ」でライフキネティック教室をやりたいですね。スクエアがどんなスペースなのかを知ってもらいつつ、自分の健康づくりの活動にも、ごちゃまぜの社会作りにもつなげられる気がします。
それに、今の法人は、自分のアイデアへのフィードバックも多いし、話もスムーズに進みますね。今までの職場だったら、「お前何いってんの?」と思われるようなことも、理念に共感しているクルー同士だと話が早いです。それに、理念に共感している人同士が、個人の活動も尊重しながら連携していくので、自分のやりたいことにもしっかり取り組めるのがいいんです。個人も法人もお互いにシナジーが得られる。そういうチームづくりは素晴らしいし、働き方のいいサイクルを生み出している気がしますね。