医療と福祉をつなぐ

今回は2021年1月入社、ソーシャルスクエア いわき店で就労移行支援の支援員として働く佐藤 竜太をご紹介。理学療法士として郡山市の総合病院に勤務し、病院でのリハビリや訪問・通所リハビリに従事。法人内での人材育成プロジェクトにも参画する佐藤が、日々の仕事の中で感じることとは?

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佐藤 竜太(さとう・りゅうた)

SOCIALSQUARE 上荒川店 スクエアクルー/理学療法士

ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していく「Crew’s Voice」のコーナーです。

今回は2021年1月入社、現在はソーシャルスクエア いわき店就労移行支援の支援員として働く佐藤 竜太をご紹介。理学療法士として郡山市の総合病院に勤務し、病院でのリハビリや訪問・通所リハビリに従事。法人内での人材育成プロジェクトにも参画する佐藤が、日々の仕事の中で感じることとは?

※掲載内容は取材当時のものです

 

理学療法士としてのジレンマ

現在は、福島県いわき市平にあるソーシャルスクエアいわき店就労移行支援の支援員として働いています。通所された利用メンバーさんへの支援やカリキュラムの実施、定期的な面談で一緒に就職に向けて計画を立てながら、就職活動のサポートをしていくという感じです。就職先を開拓していくために企業を訪問したり、利用メンバーさんと企業さんをマッチングするための実習の調整を行ったりすることも業務の一つです。

今年から法人内で、人材育成のプロジェクトを実施していてその辺りのお仕事も始まっています。具体的には支援の質を上げるための研修、新入社員のフォローアップなどをシステム化していくようなプロジェクトで、拠点を横断した支援クルー同士の座談会、勉強会などの運営も実施しています。いまちょうど医療機関から転職してきた支援クルー同士で、僕たちみたいな福祉と医療の連携についてより良くできるように意見交換を進めているところです。

前職は理学療法士として、総合病院に勤めていました。病気や怪我によって障害を負った方々に対し、社会復帰など一人ひとりのニーズに応じたリハビリを提供します。日々いろいろな方のリハビリを進めていく中で、ご病気や障害のある方が医療機関にかかって、治療やリハビリを経て徐々に状態が良くはなっていくんですけど、いざそこから地域に出ていくことの難しさを感じていました。「病気や障害とうまく付き合いながら〜」というのは簡単ですが、社会の目や周囲の環境が阻害因子になって、患者さん自身の引け目に繋がっているのかなと思うようになったんです。せっかくリハビリや治療を頑張って良くなっていっても、地域での生活に患者さん自身が積極的に踏み出せないことがよくあって、理学療法士としてはジレンマを感じていたんです。

それを強く感じたエピソードがあります。
ある時、訪問リハビリで担当していた方にスーパーで買い物がしたいというニーズがあり、実施する機会がありました。その方はひとりで歩行が難しい状態。なんとか行ける方法を考えて一緒に買い物をしたんですけど、一目見れば大変な状況だと分かるのに、周りのお客さんは我関せず見て見ぬ振りみたいな状況だったんですね。その時に「ああ、これだったのか」と。患者さんたちが病院を出て地域社会に出る最初の一歩が踏み出せないのは、障害や病気に引け目を感じている、更には社会的な障害や病気に対するマイナスのイメージや「自分事」でないことが関係しているなと思ったんです。

それと障害やご病気のある方と地域社会の人たちの間に「家族」っていう存在が大きいかなと思うんですが、ご家族でさえご本人の希望や可能性を塞いでしまっているような場面にもいくつも出会いました。誰もが障害や病気によって今まで通り過ごすのが難しくなる可能性があります。それに対して自分も家族も、周りの人もネガティブなイメージしか持っていない状況はあまり良くないですよね。ますます、「何かやろう・頑張ってみよう」という気持ちがなくなって、家にこもり、体の機能も悪化していく一方です。

逆にいうと、家族をはじめ地域社会の認知や考え方が変われば、患者さんも引け目を感じずに一歩踏み出すことができる。「外に出て頑張ってみよう、自分でもできるかも」という気持ちになれるのかなと。理学療法士は患者さんご本人へのアプローチが主で、なかなか地域の方へ働きかけをすることは難しいです。そんな時にちょっと視野を広げて、地域社会のことも一緒に考えられる仕事はないかなと思い始めました。その頃、SNSを通じてうちの法人(NPO法人ソーシャルデザインワークス) のことを知りました。その頃はまだ郡山に住んでいたのですが、ちょこちょこいわきに来て興味のあるテーマのごちゃまぜイベントに参加するようになっていきましたね。いわきには色々な取り組みがあって面白い土地だなとも思っていたし、子供が生まれたり、自分のライフステージが変わったのもあって思い切って転職してみようと思いました。

医療と福祉をつなぐ

福祉にはいろいろなカテゴリーを超えた、包括的なイメージがあります。区切りをつけてしまうことで起こってしまうやりにくさとか、生きにくさとかに対しては、すごくのびのびとした分野だと捉えています。前職では良くも悪くも、決められていた範疇の中で仕事をすることが多かったです。関係する機関や職種の方も専門によって細分化されているので、そこまで外の世界に目を向ける機会というか、意識を持つ機会が少なかった。でも今は、地域の企業さんや地域の方と直接会って話しをして、僕たちがやっていることや利用メンバーさんのことを説明していく機会がとても多いです。「障害者」って聞いた瞬間に、話している相手の心のシャッターが閉じる音が聞こえたりもしました。説明方法や地域の方へ理解してもらう方法をクルー同士で話し合ったり、ここは今でも模索中のところです。もちろん、企業さんのなかには「うちでも協力できるかも」と仰ってくれる企業さんもいらっしゃって、伝わった、理解してもらえたこと自体が嬉しいですね。

そうやって地域の人と地道に対話していくことも、障害や病気のある方への理解につながっていく。いまは個別に関わっている人にしかアプローチできていなくても、最終的に地域のみなさんの意識が少しでも変わって環境が整っていくことで、いまスクエアで支援している利用メンバーさんのようなみなさんが「社会でやっていけるかも」と内発的に思ってくれるようになればいいなと思っています。

一方で当事者の方への対人支援、アプローチする方法やスキルも常にブラッシュアップしていかなければなりません。理学療法士としてリハビリを行う中でも、今の障害福祉の仕事の中でも同じく大事だと思っているのが、ご本人が何をしたいのか、どんなふうになっていきたいかをヒアリングしてイメージにズレがないようにしていくのはご本人と支援者の大事な共同作業です。最初から「どうせ自分にはできない」と諦めてしまうのはとても悲しいこと。すごくぶっ飛んだ目標やニーズでもぜひ話して欲しいし、それに必要なものを一緒に考えていきたいですね。僕たちも専門知識をフルに使って、できる方法を考えたい。あとは、まだ自分がどんなふうになりたいか、何をしたいか具体的なイメージを持てない方もいらっしゃると思います。そういう方には「自分で決定するプロセス」を大切に、僕たちからできるだけたくさんの選択肢を提示して、近いものを教えてもらう。ここはご本人の心の動きを丁寧に観測できるように心がけています。

ご自身の欠点や短所ばかりに目が向いてしまって、頑張ってできていることに気づけない場合もあったりします。それとなくご自身で気づけるように面談や対話を重ねていくやり方で、自己効力感を持ってもらうことも大事かなと思いますね。

僕たちは基本的にスクエアにいる間と就職後のケア期間しか、頻繁には関われません。最終的にはご自身の中で内発的、自発的に動機付けをしていくことで、幸せになれるようになってほしい。支援者がいなくても、自分で自分の背中を押して活動できるような訓練もスクエアの中でできたらいいなと思っています。ここをいかに作っていけるかが支援者の腕の見せ所かなと思います。

数字に出来ないこと

医療の世界の課題かなと感じているところがあって、それはどうしてもその方の「病気」や「障害」だけを見がちかなという点です。でもその方を構成する要素ってそれだけじゃない。性格やライフスタイル、趣味嗜好など「人として生きるための部分」も見ないと、その方に何が必要でどう支援できるか?にはたどり着けません。医療に比べて福祉の世界では、このバランスが必要だと思っています。

医療の世界は、根拠やエビデンスが重要視される傾向にあります。病院で行われる治療や処置の報酬面もエビデンス(根拠)の強さに従って厳密に決められています。福祉の世界は経験則やその方のパーソナリティの要素も大きかったりするので、最初は戸惑いました。だけどあまりに根拠を求めすぎても「一人ひとりに合った支援」というのは実現できないし、全部が全部エビデンスで物事が片付くわけでもありません。個人の性格や特性・ライフスタイルなど数値化できない、しきれないものもトータルで考えなければいけない。このバランスに偏りが出ないように、日々知識のアップデートと個々を見る目を養う努力は続けています。

ただ、それはすごく難易度の高いことで、支援の経験がある方は専門知識や感覚知みたいなものが拠り所になって支援を進めていける部分があると思うんですが、一方、新卒でこの業界に入ったり支援員としての経験が浅い支援クルーは不安が大きい部分があるのかもしれません。冒頭で法人内での人材育成のプロジェクトについてお話をしましたが、従来の支援従事者研修や基礎研修だけでない対人支援のノウハウや知識を体系化して共有することができると、この不安は少し解消できて、法人全体としてパワーアップできる部分なんじゃないかなと思っています。今後は医療と福祉の世界の良いところを掛け合わせた支援やアプローチを法人内でノウハウとして作り上げて知識体系として価値があるものにできたらいいなと思っていますね。

医療業界から転職してくる人の割合がこんなに多い法人って少ないと思うので、そこは特色の一つになり得るんじゃないかなと思っています。医療の知識を生かした福祉というか、近くて連携が必須な業界なのになかなか混ざり合わない部分を、うまく補完できるようなことができるんじゃないかと思っています。リハ職(リハビリテーションに関する職種のこと。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など)っていま結構飽和状態にあるんですね。少子高齢化で職にあぶれないと思いきや、今後、団塊の世代などのボリュームゾーンがどんどん縮小していっています。つまり今後はリハ職の働く場所が少なくなっていく傾向にあるということです。そういう時に、リハ職の知識や経験は障害福祉の分野でも十分に生かせるし、むしろ必要とされるスキルだと思うんです。

法人の中で、医療と福祉の混ざり合いや良いとこどりが上手くできていって、より良い支援が提供できるとなれば大きな強みになると思っていますね。そうすれば、地域の医療とももっと関係性を強く持てる。誰もが障害や病気によって今まで通り過ごすのが難しくなる可能性があることを前提に、医療から福祉を経て地域社会へスムーズに移行する潤滑油のような存在になれたらいいなと思っています。

もちろん医療分野だけでなく、「ごちゃまぜ」的な交流もどんどんしていけたらなと思っています。特に僕には子供がいるので、世代を超えた交流ができるようなコラボレーションができるといいですね。特に障害のあるお子さんがいる親御さんは将来への不安が大きいし、療育や支援の情報も足りていないと思います。そんな時にうちの法人やスクエアのことを知ってもらって安心材料の一つになれたらいいなと。

【ごちゃまぜ】
障害の有無、国籍、年齢、性別、文化など異なる人が存在する社会を楽しむための自然な機会を「ごちゃまぜ®」と題し、自分たちがやりたいと思え、みんなで楽しめるまちづくり企画を地域の中で運営しています。その地域にとって大事なことをその地域の人たちと共創しています。

 

あとは個人的に食育に力を入れたいなと考えています。前号のごちゃまぜタイムズ当法人で年2回発行しているフリーペーパー。ごちゃまぜの世界観、多様性やインクルージョンについて発信では編集部に参加して特集したんですけど、「食」というのは私たちにとって切り離せない根源的なものです。子供の発達や健康には食事や栄養が密接に関わっていることが分かってきているので、食の重要性が学べるような取り組みや活動もやっていきたいなと思っています。

 

 

PROFILE
佐藤 竜太
佐藤 竜太

佐藤 竜太(さとう・りゅうた)
SOCIALSQUARE 内郷店
アシスタントマネージャー
理学療法士

理学療法士の資格取得後、郡山市の総合病院に勤務し、病院でのリハビリや訪問・通所リハビリに従事。
障害のある方々が生きやすい社会を作りたいと、2021年1月ソーシャルデザインワークスへ入職。

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