耳を傾ける姿勢を続けて
2021年よりソーシャルデザインワークスに入職。ソーシャルスクエア上熊本店でサービス管理者として働く橋本沙依をご紹介。作業療法士として6年間病院で働き、その後ソーシャルスクエアへ転職。「人を支援する」仕事を続ける橋本沙依に、「医療」から「福祉」の領域に踏み込んだきっかけ、そして支援の魅力や想いについてインタビューしました。
橋本 沙依(はしもと・さえ)
SOCIALSQUARE 上熊本店 サービス管理責任者 作業療法士
ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していく「Crew’s Voice」のコーナーです。
2021年よりソーシャルデザインワークスに入職。ソーシャルスクエア上熊本店でサービス管理者として働く橋本沙依をご紹介。作業療法士として6年間病院で働き、その後ソーシャルスクエアへ転職。「人を支援する」仕事を続ける橋本沙依に、「医療」から「福祉」の領域に踏み込んだきっかけ、そして支援の魅力や想いについてインタビューしました。
※掲載内容は取材当時のものです
もっと身近な支援をしたい
—— 編集部 - 現在の役職について教えてください
2021年に入職して現在はSOCIALSQUARE上熊本店でサービス管理責任者(※以下「サビ管」と略)をしています。普段は自立訓練や就労移行支援のご利用メンバーさんに限らず、スクエアの支援クルーなど全員の状況を把握できるよう努めています。
—— 編集部 - 本部から橋本さんにサビ管のお話があったのはいつ頃ですか?
スクエアに入職する以前は作業療法士として働いており、サビ管になるための要件を一部満たしていたため、採用面接時にサビ管のお話をいただいていました。
なので、入職と同時にスクエアの研修と並行してサビ管研修も受けていきました。
サビ管としては「いかに他者をサポートしていけるか」が今の自分の課題かなと思っています。クルーの教育もサビ管の役割ですので、適宜支援についての困り感を聞いて、作業療法士としての知識を活かした教育ができればと思うのですが…スクエアのクルーは自分からどんどん成長してしまうので、あまり力になれていないような気もしています。逆にスクエアのクルーから学ばせてもらうことの方が多いくらいです。
—— 編集部 - 作業療法士からスクエアに転職したきっかけについてお聞きしたいです
自分自身の無力さを感じたから…ですかね。
転職へのきっかけとなったのは、6年間働いていた身体障害領域の病院で出会った知的障害の患者さんです。怪我をして入院してきたその患者さんはリハビリの中で、就労やボランティアに興味を持っているけれど、自分でも何ができるかわからないという相談をしてくれました。
私は病院の相談員とともに、その患者さんがボランティアできそうな場所や頼れる場所を探してみましたが、患者さんのご家族から反対されてしまいました。ご家族の反対がある以上、病院の方針としてもそれ以上の介入ができず、結局ご本人の要望には答えられなかったんです。
私はこの状況に対して「求めている人がいるのに、何にもできなかった」とどこかモヤモヤとした感情になりました。
—— 編集部 -患者さんの想いもご家族の想いも、病院の方針も理解できる分、どうにもできない感覚になりますね。
そういった感情を抱いたことはこの一回だけではありませんでした。
高次脳機能障害を持つ患者さんのリハビリを担当していた時のことです。その患者さんはひとりで生活ができるよう、数カ月かけて電話のかけ方や、電子レンジの使い方、お湯の沸かし方について訓練していたんです。その患者さんは無事しっかりと訓練を終えて、退院しました。
しばらくすると、その患者さんが再び入院してきたのでご本人の生活の状況を聞いてみたところ、それまで訓練してきたことが何一つできていないことを知りました。
その事実は、自分にとってかなりのショックで…、本人のやりたい事や望みをしっかりヒアリングできていなかったんじゃないか、自分のエゴだったんじゃないかとさまざまな思いが込みあがってきました。患者さんのお家の中でも何度か練習もしていましたが、その時はできていたんです。なので模擬的に実施するリハビリには限界があると感じました。
こうした経験から「求めている人がいるのに、何にもできなかった」というモヤモヤが、次第に「助けを求めている人に対して、もっと身近な支援をしたい」という気持ちに変わっていきました。具体的にどういう仕事をするのか決めてもなかったんですが、1年後に病院を辞めると勤務先に伝えました。
—— 編集部 - 転職先が未確定の中で、辞めると伝えたんですか?覚悟がすごい…
ノープランでしたが、やりたい方向性はわかっていたので。1年間かけて自分のやりたい仕事を探すために友人や学校の先生に相談し続けたところ、「就労移行」という仕事について教えてもらいました。
そこからソーシャルスクエアの求人を見つけたという流れですかね。
その人がその人らしく生活できるように
—— 編集部 - 「人のために何かしたい」という想いが強く感じられるエピソードでしたが、橋本さんが作業療法士になろうと思ったきっかけはなんですか?
子どもの頃から将来の夢とかわからなくて…人から聞かれると困るぐらい全くなかったんです。高校2年生になって、今後の進路を考えないといけないといったとき、母親から「あんたはお年寄りと話すのが好きそうだから、作業療法士になったらいいんじゃない?」って言われて。
—— 編集部 - 「子どもの頃からお年寄りの方とよく話していた」…とかではなく、「好きそう」っていうイメージなんですね。
そうなんです(笑)なので、ピンとはきていませんでしたね。そもそも当時の私は「作業療法士」って職業自体よくわかってなくて。
そんな時、ちょうど高校の授業で「いろんな業界で働く人の話を聞いてみよう!」という場があって、たまたま作業療法士さんからのお話を聞く機会があったんです。それをきっかけにリハビリや人を支援する仕事に段々興味がでてきたんだと思います。
—— 編集部 - 病院やスクエアで人を支援する仕事を長く続けていますが、橋本さんの思う支援の仕事の魅力について聞きたいです。
改めて聞かれると悩みますね……魅力??なんだろう。
—— 編集部 - 結構悩んでますね。では反対に、支援の仕事で大変だったこと。支援の仕事が嫌になってしまったことはありますか?
支援の仕事が嫌になったことはないですね。病院時代は自分の無力さを感じていましたし、スクエアでもご利用メンバーさんの支援方針で悩むことはありますが、誰かをサポ―トするというこの仕事に対して嫌になったことは全くないです。
支援の仕事をしていると、自分自身も支えられてる気持ちになるんです。
ご利用メンバーさんの話を聞いていると「そういった視点もあるのか」って学びになるし、悩んでいる方が、毎日話をしていくうちに「今度こういうことしてみようと思うんです」と前向きな話をするようになるなど変化を感じると、嬉しくなります。
ご利用メンバーさんが元気になっていく様子を見ることで、自分の喜びややる気に繋がっていく。そんなところが魅力なのかもしれません。
—— 編集部 - 橋本さんの今の仕事への想いについてお聞きしたいです。
その人がその人らしく生活できるように、支援をしていけたらと思っています。そのために、その方の行動原理を理解できるよう耳を傾けることを心がけていますねその人がやりたいこと、実現したいことを叶えられるように、耳を傾ける姿勢を続けていけたらと思います。
「医療」と「福祉」をシームレスな関係に
—— 編集部 - 作業療法士として「医療」の領域で働いてから、「福祉」の領域で働かれているわけですが、違いなどは感じましたか?
入職当時は「医療」と「福祉」といった方法で区別はしておらず、「院内リハ(※1)」と「地域リハ(※2)」みたいに分けていましたね。以前の職場との違いという話であれば、やはり支援を行う相手との距離は縮まったと思います。まさに「身近な支援ができる仕事」だと思います。
(※1)院内リハビリテーション。医療施設にてリハビリテーションを実施すること。
(※2)地域リハビリテーション。障がいのある人々やその家族が、住み慣れたところで生活が送れるよう、⽣活にかかわるあらゆる人々や機関・組織がリハビリテーションの⽴場から協力しあう活動のすべてを言う。
—— 編集部 -「入職当時は」と言っていましたが、働いていくうちに「医療」と「福祉」に何か感じたことがあったのでしょうか?
ご利用メンバーさんを支援するにあたって、ご本人のご家族や相談員、主治医の方など、ご本人の生活に関わる方々との連携はとても重要になってきます。
その連携を目指していく中で「医療」と「福祉」との間に、距離を感じました。
互いが互いに遠慮している状態…と言うんでしょうか?支援や治療の方針のすり合わせはできても「利用者メンバーさんの支援をするために協力を」という話になると、途端に壁が見えてくるんです。
地域リハって、人と人が互いに協力しあえるようになることが第一ミッションみたいなところがあるので、その壁はなるべくなくしていきたいと思っています。それが最終的に、ご利用メンバーさんへのよりよい支援提供に繋がっていくはずなので。
ですので、まずは「医療」と「福祉」をシームレスな関係にできるように、私たちから積極的に連携を働きかけていきたいですね。
橋本 沙依(はしもと・さえ)
SOCIALSQUARE 上熊本店
サービス管理責任者
作業療法士
1992年熊本県生まれ。作業療法士として6年間病院に勤務。
多くの患者さんと接する中で社会参加を目指す方のより密接した支援がしたいと思い転職を決意。2021年SOCIALDESIGNWORKSの理念に共感し入職。