【書評】君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

新連載!ソーシャルスクエアへ通うメンバーさんによる書評・「生きづらさ」をかかえる、わたしたちが選ぶBOOKS。ここでは敢えて新刊に絞らず「生きづらさをかかえている方々の視点」で選ばれた本の紹介と、その内容について、筆者が感じたことや参考になったこと、思ったことを書き綴っていただいています。生きづらさをかかえるかたも、そうでないかたも、ぜひ次の一冊の参考に。

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君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている   夏木エル 著

 

「あなたの手紙が、無事届きますように」

雨上がりが似合う、主人公の成長と恋愛の物語です。

主人公は「剣道小町」と呼ばれる高校生 歩。ある日、親友の加奈子が先輩にラブレターを渡そうとして渡しきれず、歩にラブレターを押し付けて去っていってしまう所から始まります

手紙を受け取らず去ってしまいそうな先輩を、必死に手紙を渡してしまおうとする歩。

「わかったよ。友達思いの後輩に免じて、この手紙はもらっとく」

告白は必ず断ると噂の先輩が手紙を受け取ってくれた。
その事が奇跡と呼ばれ噂が広がり、歩の元にはラブレターを渡して欲しいとの依頼が毎日舞い込むように。

剣道の県大会も近付く中、歩は焦り、周りに当たってしまう。

―それでも、過去の罪を抱えて歩は想いを乗せた手紙を届ける。それが、せめてもの罪滅ぼしだから。

私がこの本を読もうと思ったのは帯にある「みんな、誰にも言えない想いの先に光を探している」という一文です。歩の誰にも言えない想いってなんだろう? そんな興味からこの本を手に取りました。

「人けのない校舎裏で、ふと足を止めた途端降り出した雨。」

この一文で物語は始まります。
誰が、どのような手紙を渡そうとしたのか、この一文にグッと惹き込まれまれました。
歩が周りに翻弄されて一喜一憂する姿に、自分を重ねて読むことができました。

主人公の歩は過去に隠し事をして今を生きています。誰にだって、過去の隠し事や思い残したことはあると思います。歩もそんな過去を抱えた一人。

私も思い残したことがたくさんあって、あの時こうすればよかった」「あの時あんなことを言っていればよかった」と数えればたくさんあります。そんな歩と私に、最後まで共感して読むことができました。

物語の途中で、歩の幼なじみで剣道部主将の白木優一郎が練習中に倒れてしまいます。そんな優一郎を心配してお見舞いに行った歩は、優一郎が吐いている衝撃的な光景を目にします。

「いいからもう帰ってくれ!」

それ以上に衝撃だったのは、いつも優しかった優一郎が別人のようになってしまったこと。
その事がきっかけで、歩はいつでも優一郎に頼りきりだった事に気付かされます。

「県大会で優勝して、優ちゃんに私はもう大丈夫って言うんだ」

そう決意を固めた歩は、ラブレターを運ぶお仕事も休業。毎日朝から晩まで今まで以上に剣道漬けの日々を送ります。

県大会当日。決勝まで勝ち進んだ歩は緊張で震えていました。今まで背中を叩き戦場へ送り出してくれた優しい優ちゃんはいません。しかし、代わりに同じクラスの深月が駆けつけてくれました。

「頼ってもいいんだよ!」

そう言われ、歩は深月に背中を叩いてもらい戦場に向かいます。

私も「人に頼る」という事が苦手です。

理由は「自分がしっかりしなきゃいけない」「周りに迷惑をかけちゃいけない」という固定概念が頭の中にあるから。私の前職は経理事務でした。まだ一年目の新人で右も左もわかりませんでしたが、周りが忙しそうにしていたり、「これは聞いてもいいことなのだろうか?」と思い込んでしまいなかなか人に頼れませんでした。

それで失敗や叱られることも多々ありました。それも、この深月の一言には迷いを全て吹き飛ばす不思議な力がありました

私は一人じゃない。
家族や、高校時代の友達や、たくさんの仲間がいる。
決して一人じゃない。

それがどれだけ心強いことか。この一言に全て詰まっているように思えました。私もこれから少しずつでも人を頼っていけたらと思います。

歩は県大会が終わってからラブレターを届ける仕事を完全に廃業します。そして自分の罪も償い、また剣道に集中する日常に戻っていきます。

最後に届けたのは、素敵なラブレターでした。
最後は歩が好きな青空が似合うお話でした。

様々な人の想いが交差して、自分の罪を認めていく歩のそのひたむきさは、私も見習っていきたいと思いました。

文章も素晴らしく、緩急があって一瞬で物語に惹き込まれていきます。恋が上手くいかなくて思い悩んでいる方や、あと一歩の勇気が出ない方に是非読んで欲しい一冊です!

(書評ライター:ゆのみ)

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