【書評】立ち直るための心理療法

新連載!ソーシャルスクエアへ通うメンバーさんによる書評・「生きづらさ」をかかえる、わたしたちが選ぶBOOKS。ここでは敢えて新刊に絞らず「生きづらさをかかえている方々の視点」で選ばれた本の紹介と、その内容について、筆者が感じたことや参考になったこと、思ったことを書き綴っていただいています。生きづらさをかかえるかたも、そうでないかたも、ぜひ次の一冊の参考に。

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「立ち直るための心理療法」矢幡洋 著

「人生というものは、楽しいことばかりではないけれども、じたばたしているうちにいつの間にか何とかなっているものだと教えるつもりです」(ℓ203)

幼き娘を抱きながら口述筆記したという著者はあとがきで、その幼き娘へ将来語る言葉として、こう締めくくる。

この本は、心の病を扱った本である。構成としては、心の病気の種類の説明から始まり、次にトラウマ理論、精神科医・カウンセラーの上手な使い方、心理療法はどんなことをやるのか、心の病気の治り方などの見出しが並ぶ。著者がまえがきで言うように「一種の実用書として、徹底的に実践的で現実的なもの」にしようとしたことが見出しからもわかる。
私がこの本に出会ったきっかけは、「インターネット毒物宅配事件」について著者が書いた本を読んだことがあり、あの本を書いた人が、「立ち直るため」と銘打って本を書いたことに興味を持ったからである。

心の病という重いテーマを扱いながら、ポイントがとてもわかりやすく書かれているので、この本を紹介したいと思った。

この本に出会った頃は、半分ぐらいしかわからなかったことが、この書評を書くにあたって読み返し、なるほどと腑に落ちたことが2つある。

1つめは、原因究明に重きを置いても解決しないということ。
2つめは、発想の転換によって、見えてくることがあるということだ。

私は専門家ではないので、精神病や神経症についての細かい説明はしない。あくまでもこれまでの経験とこの本を読んで感じたことを書きたいと思う。

まず、1つめの原因究明についてである。

「その原因が何なのか一つの原因に特定出来ないし、特定することが特別に治療に役立つというわけではない」(ℓ53)

 

ちょっと前の私なら、この言葉を疑いの目で見ていただろう。原因を解決することでしか治癒する道はないように感じていたからだ。私は、親の死をきっかけに、様々なことが重なり、発症に至った。この本では、「よほどのことがなければ精神病は発症しない」(ℓ71)と書かれている。発病するからには、トラウマや原因は確かに存在するのだろう。しかし、原因がわかったところで、何も解決しないのだ。親が死んだ。その事実は、変えられない。もうすでに起こってしまったことなのだ。実際に、私は、その事実が原因だとわかっても、先に進めずに大変苦しんだ。

「宿命的なトラウマ論はあなたを絶望させるだけだ(ℓ60)」

 

悲しき事実には絶望させる力はあるけれども、治癒できる材料にはならなかったのである。私は、担当医に何度も訴えた。原因はこれも、あれもありますと。しかし、それを告げられても、他人は助けようがないのだ。それは盲点だった。頭から離れず、変えられない事実に向き合い続けることは、健康とは言えない。そんなことを続けていれば、悪影響であることは間違いない。それにトラウマについて考えることは、とてもつらいことである。それでも考えしまうことを止められず、自分だけがつらいと思い込んでしまうときもあると思う。だから、自分だけが苦しいと思ったら、そういうときは、原因究明に心を砕かずに、助けを求めてみてはどうかと思う。案外、誰かが解決のヒントを持っているかもしれない。

私は何人も主治医が変わったが、この本に書いてあるように、結局、良い医者というのは、自分との相性であることがわかった。精神科や心療内科に通ったからと言って、病状が必ず良くなるとは言い難いのだ。治療のために通って、さらに悪くなることだって考えられる。

それでもなんとか治したいと思うなら、誰かの助けを求めるべきだと思う。世間一般でいう良い先生と呼ばれる人だけが必ず自分にとって良い先生とも限らない。この本では、参考になる精神科の医師の基準が書かれている。

「治療の方針がきちんと説明されているか、薬の効果を親切に説明してくれるかどうか、副作用があるとしたらどんな副作用があるかを説明してくれるか(ℓ95)」
「精神科医の腕の良し悪しには大変な落差があります。(ℓ176)」

 

本当に助けが欲しいときに、良い先生に出会えることは幸運なことだと思う。出会えなくても、この本にも書いてあるが、「救いを捜し求める粘り強さ」(ℓ198)を捨てないことだと思う。問題が大きければ大きいほど、解決するために痛みをともなうのは仕方がない。それだけの出来事にあなたは直面したのだ。

2つめは、発想の転換によって見えてくることについてである。

まず、心の病気にかかってしまったら、おそらくつらい出来事やトラウマについて考える時間が増え、自信を失くしてしまったり、自分を責めたり、焦燥感を感じたり、負の感情に触れる機会が増える人が多いのかなと思う。

そんな人達に、この本は語りかける。

「人間には立ち直るため資源がある(ℓ65)」

「どのようなストレスを受けても人間にはそれに抵抗する力があり、そしてその力を伸ばすことができる(ℓ65)」

私は以前、カウンセリングを受けていて、自分の中で、ふと気持ちが軽くなったときがあった。今では何がきっかけか覚えていないので、ささいなことであったと思う。それをカウンセラーさんに話すと、それは、「自己治癒力」ですよと言ってもらえて、そうか、私にも自己治癒力という力があるのだと目からうろこだった。

「「とにかく上手くいった例を参考にして自分にも真似出来る事からやってみる」というやり方は、私たちが思う以上にたくさんの人が自分の問題を解決するためにやっていることなのです。(ℓ132)」

どうしても自分が何か心の病気にかかったりすると、さきほどの原因究明や出来ない理由ばかりを集めて、自分を責めてしまう。しかし、この本は、上手く行った人のマネをしてみようと言うのである。救いや助けを求めるとき、自分の中にある自己治癒力を信じてみてもいいのかと思う。

発病した、ストレスを受けた、トラウマがある。どれも自分だけが持っているストレスだと感じるかもしれないが、少し隣を見れば、同じような傷を負っても、なんでもなかったように、過ごしている人がいる。私が親の死に直面し、発病したときに、ずっと感じていた疑問だ。なぜあの人は、「大切な人の死」に直面しても、普通に生活できているんだろう。なぜ私はそれができないのだろう。そのとき私は自分を責めていたのだ。原因にとらわれすぎて、自分が出来ることの方に目を向けることができなかった。私が見たその人は、別に「大切な人の死」に対して何も感じていなかったわけではないと思う。

「最良の解決策を考え出せるのは本人自身。」(ℓ132)

誰かのうまくいっている方法を聴き、試行錯誤するしかない。自分の心の状態が一番わかるのは自分自身なのである。

「あなたが「人生において実現したいことがどこまで実現したか」によって、成果を測ることなのです。(ℓ182)」

どんなつらい出来事に出会っても、人生はそこでは終わらない。その先の人生を生きていかなければならないのだ。つらいことを考えて生きるのが好きなら、止めない。少しでも良くなりたい、楽になりたいという気持ちがあるなら、助けを求めるべきだし、自分がどうしたら楽に考えられるのか、どうしたら楽しくなれるかを考えた方が、きっと長いトンネルから抜け出せる力になると思う。悩み抜いた日々が、成果にきっとなる。

この本は、さらに続ける。

「「ここまでやってきた」事実の方が100倍も重要なことなのです。」(ℓ198)

心の病と戦い続けてきただけで、「よくやってきたさ」と発想の転換してみる。つらいことを考えることを止めてみる。

「あなたが「どこかに立ち直るきっかけがあるかも知れない」と希望を守り続けていられるのは、何があなたを支えているのですか?」(ℓ199)

 

この本は私に問う。

私がずっと思っていたのは、絶望したまま終わりたくない。死ぬときは、笑って死にたいと思っていた。だから、本当につらいときに、死ぬのは今じゃないと思った。病状が安定し、親の死から時が経ち、わかってきたのは、親との思い出も悲しいものばかりではなかったということだった。お腹を抱えて笑った思い出もあった。それ以外でも、楽しい思い出が沢山あった。私の中でつらい思い出ばかりで埋め尽くされていたものが、変わったきっかけがあった。岐路に立ったときに、幾度となくターニングポイントとなる出会いもあった。

ふっと楽になる。そんなきっかけに出会えると、何かが切り替わる。楽しいことばかりでもないけど、つらいことだけでもない。冒頭に取り上げたように「じたばた」してみればいいと思う。本当に「じたばた」が嫌になったら、誰かうまくいっている人のマネをしてみたらいいと思う。

「治りません」と言われて、諦めていては、きっといい方向には向かわない。100人のうち99人が、「治りません」と言っても、最後の1人は味方になってくれるかもしれない。極端かもしれないが、それぐらいでいいと思う。少なくとも、この本の著者は、絶望を投げかけることだけはしていない。本文の最後で「あなたの希望は何ですか?」と問う。私にとっての希望は、どんなにひどい状況になっても私を見捨てなかった人達だった。嫌な人に出会うときもあるけれども、会うと心から笑える人もいるというのが、今の私にとっては希望かもしれない。

そうこの本は、教えてくれた。

この本を私は、日々につらさを感じていて、それでもなんとか良くしたいと考えている人におススメしたい。助けを求めたいけど、うまくその思いを伝えることができない人もいるだろう。本なら、読むだけでいい。その中から自分に合った方法を見つけていけばいいのだ。そのための助けになる本だと思う。

自分が心の病の当事者であったり、家族に心の病を持つ人がいたりすると、どうしても視野が狭くなりがちだと思う。どこに助けを求めるのか、どうしたら乗り越えられるのか、少し広い視野を持ち、落ち着いて考える時間を、この本を読んで感じてみるのも悪くないと思う。

書評ライター:とまと
表紙デザイン:いわき店 ソーシャルコーディネーター加賀谷 果歩

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