【書評】かがみの孤城

新連載!ソーシャルスクエアへ通うメンバーさんによる書評・「生きづらさ」をかかえる、わたしたちが選ぶBOOKS。ここでは敢えて新刊に絞らず「生きづらさをかかえている方々の視点」で選ばれた本の紹介と、その内容について、筆者が感じたことや参考になったこと、思ったことを書き綴っていただいています。生きづらさをかかえるかたも、そうでないかたも、ぜひ次の一冊の参考に。

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かがみの孤城    辻村深月 著


たとえば、夢見る時がある。
転校生が来る。その転校生は、私と前からの知り合いで、他のクラスメイトがどんなに仲良くしたくても「私はこころちゃんがいい」と私を選んでくれる。
そんな奇跡が起きないことは、知っている。

この物語は、主人公こころと、不可思議なかがみの孤城に集まった六人の成長物語です。
私は元々この人の作品が好きで、この本も表紙のインパクトや「かがみの孤城」という気になるタイトルにつられ読んでみることにしました。

「願いが叶う願いの鍵」

それを手に入れる権利があったら皆さんはどうしますか?

私は喜んで城の主であるオオカミさまの招待を受けたでしょう。仕事での失敗をなかったことにして、普通に仕事が出来るよう願いたいと思います。喧嘩した友達とまた仲良くするために使うかもしれません。

全員が仕事や、学校や、プライベートになにかしらの悩みや嫌なことがあると思います。全員がその話題に触れないという暗黙の了解も嬉しいです。願いのことや、仕事に行けない理由など、言いたくない事はたくさんあると思うので、言わない様配慮された空間の方がいいと思いました。

鏡の中にある『かがみの孤城』へ招待された七人の子供たち。彼女たちには、とある共通点があった。オオカミさまから説明を招待を受けた七人の子供たちは願いの鍵と願いの部屋を探す一年間を共にすることになる。

とある事がきっかけで中学校に行けなくなったこころある日、自分の部屋の鏡が光って不思議な城の中に招待される。そこでオオカミの仮面を被ったオオカミさまにこころを含めた七人は説明を受ける。

「これから三月までの一年間、九時~夕方五時まで願いの鍵探しをしてもらう」

「願いの鍵が見つかれば一年の猶予を待たずして城は消滅する」

「時間を守らなければペナルティーがある。”それ”が始まれば私にもどうしようも出来ない」

それぞれ教室や部活、人間関係でなにかしら問題を抱えた子たち。普通に生活していれば交わることのないであろう七人が城に集められ、全員が混乱していた。

「とりあえず、自己紹介させてくれない?」

オオカミさまにそう提案して、七人はそれぞれに自己紹介をする。「ここに来た思い当たる節はないよね?」という確認と共に。全員が似たような状況にある事を暗黙の了解としながら、願いの鍵を探す一年間が始まる。

この小説は月ごとに分かれてお話が進んでいきます。出会いの四月からお別れの三月まで……月が進んでいくごとに、七人の子供たちにも変化が訪れていきます。

 

夏休みが終わる頃

願いの鍵探しの仲間の一人であるウレシノが「僕、二学期から学校に行く」と宣言する。この城に集まった七人は「学校に行けてない」という共通項で結ばれていた。二学期が始まってからウレシノは城に来なくなった。「気にしないで来ればいいのに」と思っていた九月中旬。ウレシノが傷だらけで戻ってきた。
事情を聞かずにゲームに誘うと、ウレシノは「うん。遊ぶ」とだけ答えた。

しばらく遊んだ後、ウレシノは自分からその境遇を話し始めた。全てを聞き終えた後、ゲーム好きのマサムネが、「お疲れ」と真剣な表情とぶっきらぼうな口調で声をかけた。

ウレシノは「おまえら全員学校に行けてないんだろ!?」と詰め寄ります。

ここで、暗黙の了解のバランスが破られてしまいます。「学校に行けていない」という共通項。私だったら、「仕事に行けない」という共通項。それぞれに事情があるかもしれませんが、周りが「普通」に行えている事を自分は出来ていないと考えると、それだけで気が引けてしまいます。

暗黙の了解のバランスが崩れるのも嫌ですが、そのバランスを崩したウレシノも勇気ある行動だったのではないかなと思います。きっとウレシノは、このかがみの孤城に来ているみんなと、より本音で話したかったのではないかなと感じました。

ウレシノの件がきっかけでこころはみんな様々な事情がある事を考える様になった。特に夏休み前後に髪色を派手に変えたアキやスバル。全員が鏡の外の世界を持っていて、こころの知らない所で変わっていくという事実が、こころを焦らせていく。

そんな中、スクールの喜多嶋先生がこころを訪ねて来てくれた。喜多嶋先生は、以前こころの母に「こころちゃんを責めないであげてください。何か事情があるはずです」と言ってくれたことがあるという。

―どうして。私を庇ってくれたんですか?

以前母から聞いて疑問に思っていたこころの問いの、喜多嶋先生の答えはこころが欲しかった言葉だった。

「だって、こころちゃんは毎日、闘っているでしょう?」

 

「毎日、闘っているでしょう?」

これはこころが欲しかった言葉。そして、私が欲しかった言葉でもあると感じました。慣れない仕事や環境で、私たちは見えない何かと「闘って」いるはずです。私はこの言葉に凄く救われました。正式な仕事に就いていなくても、こうやってスクエアに通ったり、毎日城に通っていることを「闘っている」と表現してくれるのは、いまも頑張っていると認めてくれる様でした。

仕事をしていないことは、時に「甘え」や「怠惰」として世間から白い目で見られるかもしれません。仕事の失敗や対人関係にしても、向き合う事を恐れていたら「負けている」「ダメなやつ」と思われるかもしれません。それでも、時には逃げることや目を背けることも、ある種の「闘っている」ことになるんじゃないかなと思います。

十一月の始め。

長い不在の後に戻ってきたアキは、制服を身にまとっていた。アキを最初に見つけたこころはその制服の校章に目を奪われる。

「アキちゃん、雪科第五中学の、子なの?」

その後に入ってきた子たちも同じ反応を見せる。―みんな、同じ中学に通っていた。私たちは、助け合える。部屋に戻ってから、こころは感じる。

―このどこかに、あの子たちがいる。

遠くにいると思っていた友達が近くにいるかもしれなくて、しかも助け合えるかもしれない。私はそう思うだけで心がときめくと思います。辛い時、悲しい時、嬉しい時や楽しい時だって孤城に来ているみんなと共有出来ると考えたら、闘っている毎日も少しは楽になると感じるからです。大好きな仲間と助け合えたら、きっとそれはとても素晴らしいことで嫌な日常も少しでも好きになることが出来ると思います。

 

十二月。リオンの提案でクリスマス会を行うことになった。
「実は―、相談があるんだけど」

城で各々過ごしていた全員に向けられ、そうマサムネが切り出した。
「始業式の一日でいいから、学校に、来てくれない?」

もうそれぞれ上の学年を考える時期。マサムネは親から学校を変えるよう言われたらしい。

そうして一日……一月十日に学校に集まる事をみんなで決めた。

 

約束の日。

こころは自転車で学校へ向かった。自分の下駄箱の中には、一通の手紙が入っていた。……大嫌いなあの子からの手紙が。手が震え、体が震えた。

保健室へ駆け込むと、そこにいたのは養護の先生一人だけだった。

混乱しながらも、城のみんなは来ていないかと先生に問い詰める。しかし先生は、困惑したような表情を見せた。

「そんな生徒、いないと思うけど」

分かってしまう。奇跡は起きない。こころはみんなに”会えないんだ”と直感した。

次の日。城にはマサムネとリオン以外は全員揃っていた。

部屋に入ったこころに、アキは声をかける。

「どうして来なかったの?」

違うと否定したこころに、アキは「みんなと同じこと言うんだね」と言った。

マサムネが来る気配はない。結局、その日もその次の日も、ずっとマサムネは来なかった。

せっかく会えると思った孤城の皆には、会うことも助け合う事もできない。

学校に行けていないこころにとって、こんな絶望はないと思います。私も、同じ会社に行けていない子に会えると思ったのに、会えないと分かっただけで凄くショックを受けると思います。同じ空間で助け合えない。お互いに背中を預けて闘う事も出来ない。

マサムネだけでなく、孤城に来ている皆がショックを受けたに違いありません。

私も、きっとショックを受けて城に来ることが辛くなるかもしれません。どうせ仲良くなっても、一緒に闘う事は出来ないのですから。

二月に入ってすぐ城に来たマサムネは、みんなにパラレルワールドの話をした。自分たちはパラレルワールドの住民で、世界を切り捨てる為に集められた七人がここにいる七人なんじゃないかということだった。

しかし、話を聞いていたオオカミさまは「違う」とそのマサムネの考えをはねのけた。

「ここは鏡の城。ただ、それだけ。世界を残すとかそんなことは全くない」

「外で会えないとも、助け合えないとも言っていない。いい加減自分で気付け」

 

奇跡は今回も起きなかった。しかしフウカが、ふっと言った。

「願いの鍵で、みんなの世界を一緒にしてくださいって願えばいいんじゃない?」

フウカの考えはとても素晴らしいもののように私の目には映りました。まだ見つからない願いの鍵を使って全てのパラレルワールドを一つにする。そうすれば

皆同じ世界で助け合える。闘うことが出来る。一緒に励ましあって、慰めあって、笑って、楽しさを共有する事ができる。

それはとても素敵な考えで、私だったらすぐ飛びつきたくなるアイディアでした。

似たような境遇の仲間と励ましあえるって、とても素敵な事だと思います。

そんな仲間がいる事は、心の支えにもなるし、また前を向こうという勇気にも繋がっていくと思うからです。

 

三月。お別れの月が始まった。


かがみの孤城にはペナルティーがある。鍵が見つからなければ三月でその役目を終えて閉じてしまう。鍵を使うと記憶が消えてしまうという代償から、みんな何となく鍵探しを諦め、記憶を保ったままそれぞれの生活へ戻ろうとしていた。

そんな中、アキがかがみの孤城との重大な掟破りを犯す。

今まで一緒に過ごした仲間同士…それでも、私たちは助け合える。今がどんなに嫌な状況だったとしても。逃げたい環境だったとしても。私たちはどこかで助け合える。

そんな思いで、こころたちはアキを救い出す。

「楽しかった。ここに来ている間だけは普通の子みたいになれて、本当に嬉しかったんだ」

フウカがそう告げる。それぞれがそれぞれに別れの言葉を告げる。それぞれ名前を教えあってから。

そうして、かがみの孤城はその役目を終えた。

私も、アキの気持ちが少し分かります。きっとかがみの孤城はとっても素敵で気兼ねがなくて、みんなが自分のことを理解してくれる、そんな空間だったんだと思います。私はそんな素敵な空間を手放したくない。仕事で一緒に闘える相手がいない世界なら。感情を共有出来ない相手がいない世界なら。たとえペナルティーを受けることになっても、孤城にとどまっていたいというアキの思いは理解出来ます。

それでも、こころたちはどこかで会える希望を残して、役目を終えたかがみの孤城を去り、別れていきました。

わたしはこころたちの物語を読んでいて、とても素敵な仲間たちだなと思いました。たった一年間でしたが、彼女たちは最高の共闘仲間になれたのかなと思います。私もスクエア内や今後の活動の様々な場所で最高の仲間を見つけていきたいと思いました。

月ごとに分かれていて、小説が読む事が苦手な方でも区切りよく読む事が出来ます。もちろん、小説をよく読む方でも最後まで驚かされる展開に一気に読んでしまうこと間違いなしです!驚きのラストには私も思わず泣いてしまいました。

現実と夢が交錯する本が読みたい方。こころたちの様に理不尽や、様々な恐怖や、しがらみから抜け出せないなど、様々な理由で闘っている方に読んで頂きたいです!

(書評ライター:ゆのみ)

 

書いてくれているのはSOCIALSQUARE(ソーシャルスクエア)の利用者さんたちですSOCIALSQUARE
「社会と現在の自分を結ぶための広場を創造することで、"はたらくを諦めない" 生きにくさを抱える方々の心に栄養を、その先の、活力ある人生をデザインする」というコンセプトの元、自立訓練と就労移行支援の2つの福祉サービスを提供しています。今すぐに就職やその他の進路に進むことへ不安や自信がない方は、自分らしく活動できる広場で自分と向きあうことが出来ます。さまざまな活動を通して、今後の選択肢の幅を広げ、活力ある人生に一歩ずつ踏み出していきます。

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