代表×理事×監事鼎談「地域とつくる、ウェットな福祉」

4月より当法人監事に就任した鈴木康弘さん。今回は代表理事の北山と理事(事業支援管掌)の今泉と鼎談というかたちで、当法人との出会いと豊かな福祉経験に基づく「ソーシャルデザインワークスが目指していく地域と福祉のありかた」を語っていただきました。地域とつくるウェットな福祉とは?

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2020年4月、NPO法人ソーシャルデザインワークスに、新たに「監事」が加わりました。
県内外の就労支援団体等の理事や監事を歴任され、現在、郡山市障がい者基幹相談支援センターにて日々福祉の現場で活躍されている鈴木康弘さん。今回は代表理事の北山と理事(事業支援管掌)の今泉と鼎談というかたちで、当法人との出会いと豊かな福祉経験に基づく「ソーシャルデザインワークスが目指していく地域と福祉のありかた」を語っていただきました。

左:北山 剛(NPO法人ソーシャルデザインワークス代表理事)
中:鈴木康弘(NPO法人ソーシャルデザインワークス監事)
右:今泉俊昭(NPO法人ソーシャルデザインワークス理事(事業支援管掌))

今泉監事をお願いしたいという話をしたのはつい最近の話で、ちょうど任期の切り替わりの時期に、私の方から法人に対して「鈴木さん推しでどうでしょう」というお話をさせていただきました。

北山すでに、全国就労支援ローカルネットワークの全国大会の関係で一部関わっていただいている部分もあったので「その手があったか!」みたいな感じでダメ元でお願いしましたね。ダメ元だったというのは、鈴木さんは色々な関係団体の理事だったり監事をされていたので、お忙しいんじゃないかと。

今泉そうですね。うちの監事を引き受けてもらうことで、色々なとこに影響出ないかな…っていう心配をしながらお願いしました。

鈴木半年くらい前にお話いただいたような気がします。元々ソーシャルデザインワークスが株式会社の頃から知っていて、NPO法人に変わって今の形になるまで継続して関係性がありましたし、個人的にすごく興味があって注目していた法人だったので、私的には願ったり適ったりという気持ちでしたよ。

今泉鈴木さんとの関係を遡ると、うちが加盟していた全国就労支援ローカルネットワークの全国大会を福島県いわき市で開催される事が決定して、うちが事務局を業務を担う事になり、全国大会をうちの法人だけで準備していくのはちょっと大変だよねとなったときに、福島就業支援ネットワークに協力をお願いしたことから始まってますね。4年くらい前かな。

北山ぼくはすごい緊張しながら鈴木さんにお会いした記憶がありますね。その時は新参者だし、すでにネットワークを持っている重鎮にお会いする!みたいな感じで、ご挨拶しにお伺いしました。もう、お会いしてすぐに「あ、いい人だ」って思いましたね。怒られなかったし、説教もされなかったので(笑)

今泉2人の初対面は鈴木さんの行きつけの居酒屋でしたね。2人がものすごく熱く話し始めたのが印象に残ってますね。北山さんが居酒屋でノートパソコン開き出して、スライドを見せながら福祉事業をやろうと思ったきっかけだったり、寝たきりの重度障害の方を就労に結びつけた経験だったりをとにかく熱く語ってて、それに対して鈴木さんも福祉に対する熱い想いを語っていたのを覚えています。

鈴木:最初に今泉さんから、福島就業支援ネットワークへ協力のお話をもらったときは、そもそもどんなところなの…?と疑うじゃないですけど、そういう気持ちはありましたね。株式会社が福祉に参入してきて、アタリハズレが大きかった時代ですから。まずは身構えたというか。で、実際にお会いして北山さんの障害福祉への思いを聞くと、すごく共感できる、というか根っこは何も変わらないなと思いました。 

北山なんか通じ合えた手応えは勝手にしていました(笑) 

鈴木:ぼくは個人的に福祉に変化をもたらしたいなと思っていて、今の旧態をずっと続けていたら、障害ある方の世界はこれ以上広がらないし、社会との繋がり方も限定してしまうなと考えていたんですね。いま彼ら障害のある人の世界は、本人が望んでいる世界じゃなくて、支援者とか福祉をやっている法人とかが望んでいる世界になっていしまっている感じがしていて、そこにスパイスというか、新しい風を入れたいなと思ってたんです。そんなときに、ソーシャルデザインワークスのことを知って、福島だし、いわきだし、これはちょっとこのエリアの福祉が変わるんじゃないかという、いい予感を感じました。もちろん、最初は新参でご苦労されたんでしょうけど。

今泉株式会社も含めて、いろんな法人が福祉の分野に参入してくる中で、業界内からはいろんな評判が出てきますよね。

鈴木:かつて色々物申していた人たちもまともな支援をしていることが分かれば、手のひら返しちゃうんですよね。北山さんが話していた「10年後20年後の社会を変える」ということと繋がるんですけど、現時点で「?」という評価なものでも、10年、20年後に「やっぱりあれって正解だったよね」という、答え合わせがくるものだと思いますよ。

今泉じゃあ、監事のお話をさせていただいたときはすこしワクワクして頂けたりしたんですかね?

鈴木:ワクワク感しかなかったですね。働いているクルーが全員個性的で、まったく違うジャンルの人たちが集まって自由発想でやっていくというスタイルは他にはないと思います。例えば今後どんどん法人が成長していって、クルーが地域のいろんなところで活躍していくようなモデルも想像できて、面白そうだなと思っています。

今泉鈴木さんにぜひジョインして頂きたいなと思った理由は3つあって、1つ目は出会ったときに遡るんですが今から12〜3年前ぐらいで、そのときは障害者就業・生活支援センターの所長をやられていた頃だと思います。実は年は一つしか変わらないんですが、その頃から福祉の分野でスゴイひとがいるなと思っていたんです。その後は福島就業支援ネットワークの関連でちょくちょくお会いするようになって、とにかく鈴木さんの人柄に魅かれて、なんとか仲間になってもらえないかなぁと思って機会を伺っていました。

2つ目は、さっきも鈴木さんからうちの法人のポテンシャルとして「クルーが色々なジャンルから来ている人が多い」とありましたが、翻ると支援の経験値が少ない人もいるんですね。みんな日々悩みながら、これで良いのかなと正解のない中で支援をしている。そんな時に、鈴木さんみたいな経験豊富な方に相談できるというのはすごく強みになるなと思います。

 3つ目は、色々な福祉サービスの全国団体に顔が広いので、いろんな場所でトライしている現場の支援を知った上で、多角的に自分たちの事業所をアドバイス頂ける。同じサービスをやっていても自治体判断や地域の風土によって違うため、判断に迷うことがあるんです。そんな時に、鈴木さんに尋ねると豊富な人脈の中から話を聞いてきてくれたり、調べてくれたり、法人のコンプライアンス部門を預かっている身としては、とても頼もしいです。

鈴木:嬉しいなぁ。褒められると伸びるタイプなんで(笑) 

北山鈴木さんに監事として入っていただくことで、ぼくら自身が井の中の蛙にならないようにしていきたいというか、今まで以上に自分たちの襟を正せる部分が大きいかなと思っています。ぼくらが知らなかった時代の福祉や敢えて見てこなかった福祉を知っている方なので、温故知新じゃないですけど、きちんと今までを踏まえた上で新しい発想に結びつけて、ぼくたちの福祉を作っていける手段として、鈴木さんに期待していますね。

 鈴木:そうですね。ぼくは諸先輩がたが築いてきた福祉は、その時代に求められた福祉であったと思うし、その時々で斬新だった時もあったんだと理解していて、そういうものをぶっ壊してまったく新しいものを!というよりかは、変化をさせていくことが大事なのかなと思っていますね。

今泉私も「変化していけるチーム」というのはとても強みだと思います。今回コロナウィルスの影響もあって、時代時代で形を変えていく必要性を肌で感じました。幸いうちのクルーは苦労しながらではありますが、工夫して来所人数の制限やオンラインツールを活用した在宅支援とか、そういうのにとても柔軟に対応していけたと思っています。本当に頼もしかった。

北山日々、全国の離れた拠点とオンラインでやりとりしながら運営していたので、みんなそういうのには慣れていたよね。話は変わるんですけど、うちの法人の理念「すべての仲間の幸せを追求するとともに、あきらめのない社会をつくる」についてはどう考えていますか?

鈴木:クルーの皆さんの幸せだったり後ろ盾だったりっていうのは、すごく思うところがあって、障害福祉の支援って利用者さん・同僚・関係機関、全部「人」が関わってくる仕事じゃないですか。で、仕事以外にも家族との付き合いだったり、友人関係だったりは他の人と変わらずあるわけですよね。相対的に支援員が仕事と生活の中で「人」と関わる時間が他の業種より圧倒的に多くて、そういう部分で疲れが出ちゃって業界全体の離職率が高いのかなとも思います。せっかく利用者さんと信頼関係を築けて、今後に向けて頑張っていこうっていう時に、支援員が退職したりすると元も子もない。だからまずは支援者が幸せで、自分のことを大切にできる環境じゃないといけないと思うんですよね。

 で、それがどう「あきらめのない社会」につながっていくかなんですけど、この間立ち会ったケースで割と過酷なご家族のケースに出会ったんですね。調べてみると、数年前に行政の方でこれは福祉的なサポートが必要で、会議をしないといけないケースですねという判断になっていたみたいなんですが、ちょうど関わっていた方の異動や退職が重なって、今回近所の方からの問い合わせが来るまで、つながるべき支援につながっていなかったというケースがありました。もっと早く医療や福祉につながっていたら、きっと今のような状況に陥るまでにはなっていなかったと思うんです。どんどん状態が悪くなっていく中で、人はあきらめたり、どうしようもなくなったりする。支援者が辞めることなく健やかに関わり続けることは、当事者が外の世界を信じて、一歩踏み出してみようという気持ちにつながっていくんだと思っています。

今泉ほんとにそうですよね。「切れ目のない支援」とよく言われると思うんですが、どのクルーでも満遍なく関われる状態にするのってすごく難しくて、この人じゃないと!というぐらい信頼関係を築くことが、まずは大事で。その人がいるから、チームでの支援ができるっていう部分も大きいと思います。

北山鈴木さんに聞いてみたいのが、客観的な立場から今後うちの法人の「のびしろ」ってどういった部分になるのかなというのは聞いてみたいかなと思ってます。

鈴木:いま、手帳を持っている当事者の方で障害福祉のサービスを活用できている層って地域によっては全体の3割程度しかいらっしゃらないんですね。あとの7割ぐらいは活用されていないのと、グレーゾーンやもともと疾患がある方でも手帳を持っていなくて障害福祉サービスにたどり着かないというケースがあります。そういう方たちにだって、地域で今の暮らしを続けたいはたらきたいという沢山の圧倒的なニーズがあると思うんですね。いずれ、そういった方々が「障害」という言葉で線引きされないようになってくる。「生きにくさをもった方たち」がソーシャルスクエアに結びつくケースが増えると思うんです。そういったときに障害福祉サービスという枠だけでなく、若者支援だったり他の制度と組み合わせたスクエア作りみたいなことも視野に入ってくるのかなと思います。ニーズに合わせて、受けられるサービスや制度を選べるみたいなやりかたをしていけば、より地域に信頼される事業所になっていけるのではないかと思っています。利用者さんをサービスに合わせるのではなく、私たちが色々なサービスを駆使して合わせていくようなイメージですね。

北山そうですね。やっていくべきところは「地域とって大事なことを、地域にとってに必要なことを、地域の人たちと一緒に創っていく」だとずっと言い続けていて、各エリアごとに必要なサービスをどんどん取り入れていって、頼られる存在になっていくっていうことを大事にしてますね。「ソーシャルスクエア」って事業所の名前は一緒ですけど、実は展開しているサービスは店舗ごとに違うし、ニーズに応じて柔軟に変えていくことはこれからもブレずにやっていきたいと思っています。そのためには、日々支援で大変だと思うけれども地域にも出ていって、声を聞いて、想いを聞いてっていうアクションが必要。そのためにも「ごちゃまぜ」活動と両輪でやっていかなきゃいけないと思っています。

鈴木:自分たちの考えを発信して地域に理解してもらいながら、逆に地域のニーズを傾聴していく姿勢が大切かなと思います。

今泉ここ10数年で福祉サービスを利用される利用者像みたいなものって、だいぶ変わってきていて、もうすでに鈴木さんが仰っているような「障害者」で線引きができない方々が僕たちのところにつながってくるケースって増えてきていますよね。そういうときに、既存の福祉的な発想とか福祉業界の人だけでは限界があって、いろんな発想を取り入れていかないといけないなと感じています。限界という話でいうと事業所の中でも限界はありますよね。そういうときに、北山さんがいうように地域の人たちを巻き込んでいっしょにやっていくこと不可欠だと感じますね。

北山そう。自分たちだけでやるのは限界があります!と地域の人たちに開示していくことも大事で、そう言っちゃうことで、いろんな人と繋がりやすくなるし、頼り頼られしながらやっていけばいいんじゃないかな。

今泉なんかこう、うまく障害福祉と地域コミュニティが協力し合えて地域で障害がある人が生きやすく生活できる、ローカルモデルみたいなものになれるといいなと、漠然と思ってますね。そういう意味でも、いろいろな地域の福祉に精通している鈴木さんが監事になって下さったのはすごく大きなことだと思っています。

鈴木:ローカル、いいですよね。これから市町村合併はさらに進んで行くだろうし、高齢者だけの集落も増えていく中で、色々な生きづらさを持っている人だって労働力になって自分らしく働けるようにしていく工夫をしないと、地方のチカラはどんどんなくなっていってしまうと思うんですよね。そういうところは都市部にはない危機感なんじゃないかな。都市部で福祉をやられている方々は、他にも事業所がいっぱいあるので福祉の業界の中だけで連携していれば間に合う部分があるんですけど、地方はそうはいかないじゃないですか。使える地域資源だって限られているから、企業さんとか団体とか地域とかそういうところと繋がってやるしかない。成り立ちというか文化体系が違うんですよね。

北山「ウェットな福祉」っていうのは常に意識していたいですよね。地域でやっていく以上、ドライな福祉では介入も連携もできない。もちろん経営のことだけ考えたら、働ける見込みのある能力の高い当事者の方だけ受け入れて、訓練のコストをかけずに短期間で卒業して実績が上がるみたいなドライなモデルもできるんですけど、ぼくらが目指すのはそうじゃない。

鈴木:これからも障害福祉の事業所って増えていくと思うんですよ。ニーズの高まりに合わせて北山さんがおっしゃるようなビジネス的に成功していく事業所も増えていくと思います。そういったときに、福祉って本来なにを提供するべきなのかが問われていくことになるんだと思いますね。その事業所と繋がっている間はいいけれど期限が来たら放り出されてしまう。どこにも繋がらなくて、極端な例ですけど自死を選んでしまったり犯罪に手を染めてしまったりする。障害者の方や高齢者の方が犯罪を繰り返す背景には、刑務所の方が仕事もあるし人との接点もある、だから繰り返し犯罪をしてしまう。自分の住んでいる地域より刑務所の方がいいって、どんな地域だよと思ってしまいますよね。適切な福祉につながれば違う未来が見えるはずです。

北山まだまだ僕らも多機能型の事業所をやりはじめて日が浅いですけど、就労移行支援だけでは届かない層の方々の人生が変わっていく機会を作り上げたいですよね。

今泉そうですね。うちで提供しているサービスのうち、就労移行支援についてはいろんな団体や勉強会とか法制度を検討するためのヒアリングの機会が整っているのに対して、自立訓練(生活訓練)はそういうのがほとんどない。地方であればあるほど自立訓練を必要とする当事者の方々は多いと思います。

鈴木:制度的には自立訓練の支援の幅って、一番広いんじゃないかなと思ってますね。なんでもできるからこそ、効果測定がしにくい部分なのかもしれませんね。サービスに繋がる当事者の方も多種多様でいろんなフェーズの方々が繋がってくるから、本当は国とか行政に現場の状況を意見できる場があったほうが、当事者にも現場にもより良いサービスにしていけると思うんですよね。そこまで意識して自立訓練をやっているところが少ないっていうのもあるのかもしれない。

北山スクエアの支援への繋がりかたというのも、自立訓練の方々の方が繋がりにくいというか。地域の中で可視化されていないんですよね。家族だけの問題にしていたり、親亡き後にひとりぼっちで生活されていたり。ひとつひとつのケースにウェットに入り込んでいって、やっと必要な人にぼくらのことが伝わる。で、やっとつながることができる。

今泉本当にそうですね。ビシャビシャでいかないと(笑) 

鈴木:自立訓練の利用者さんみたいに、支援度が高いケースがいまひとつ制度側に反映されていない感じもありますよね。

北山鈴木さんといっしょに、サービスや制度をぼくたちなりに俯瞰してみて、国への提言やヒアリングに参加してっていうのもやっていきたいですね。今日は貴重なお話ありがとうございました。

鈴木:ありがとうございました。

 鈴木 康弘(すずき・やすひろ)
1976年福島県平田村生まれ。実家は青果店を営む。根っからの商人気質。15歳で脊髄腫瘍を経験、2年にわたるリハビリを経験して、補習で通った、福祉作業所のメンバーに力をもらい福祉の道を志す。入所施設5年。通所施設2年の経験後在宅福祉へ、様々な福祉サービスの管理者等経験し現在に至る。2020年4月からNPO法人ソーシャルデザインワークス監事に就任。

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