文化芸術の力で地域を「ごちゃまぜ」に

〜福島藝術計画 × ART SUPPORT TOHOKU – TOKYO公式サイトより転載〜
「文化の対象はどこまで広がっているのか」をテーマに、実際に文化の力を異業種に活用している人たちの実例を紹介します。

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〜福島藝術計画 × ART SUPPORT TOHOKU - TOKYO公式サイトより転載〜
今回は「文化の対象はどこまで広がっているのか」をテーマに、実際に文化の力を異業種に活用している人たちの実例を紹介します。お話を伺ったのは、いわき市と兵庫県西宮市で障害のある方への障害福祉サービス事業所を運営する傍ら、地域で様々な文化イベントを主催している、NPO法人ソーシャルデザインワークスの北山剛さん。障害福祉ならではのメソッドや地域づくりの話など、とても興味深いお話を伺うことができました。
―いわき市内郷に事務所を構えるソーシャルデザインワークスは、2013年に障害者の就労を支援する株式会社として誕生しました。 いわき市内郷にある障害福祉サー ビス事業所「ソーシャルスクエア」 を運営し、様々なカリキュラムを提供したり企業に掛け合ったりと、 障害のある人たちの就労をサポートしています。
会社の発足以降、 順調に成長してきた北山さんたちですが、障害福祉事業だけでなく 地域づくり事業を積極的に展開していくために、今年からNPO法人として再スタート。地域の「福祉力」を向上させるための様々な 取り組みをしています。北山さんたちが展開する活動の 1つが「ごちゃまぜ」というコンセプトを掲げたイベント。老若男女関係なく、みんなが一緒になっ て体を動かしたり、音楽を楽しん だりすることを通じて、国籍や性 別、年齢、宗教や障害の有無に関係 なく「ごちゃまぜ」な世界観を楽しんでもらうというものです。
直近のイベントでは、沖縄の伝統芸能「エイサー」で使われる「パーランク」という打楽器を作るワークショップを開催。東京の音大生や美大生なども協力し、 地域の人たちが「ごちゃまぜ」になって、打楽器作りや即興演奏を楽しみました。イベントの様子は、まるでアーティストを招いたワークショップそのもの。北山さんは、文化や芸術をどのように福祉に活かしているのでしょうか。

北山 福祉の業界で文化芸術をテーマにしたイベ ントを展開するのは、文化芸術に、日常生活の中で はなかなか刺激することのできない感性の部分に 訴える力があるからです。もっと簡単に言えば世界を広げる力があるということでしょうか。支援を受ける側、つまり障害のある方の世界を広げてくれるだけでなく、支援する側、僕たちスタッフの世界も広げてくれるんです。
様々な障害が原因で、自信を持てなかったり社会との接点を遮断してしまった方たちが、楽器やスポー ツなどに触れた途端に、日常では見せなかった新たな一面を見せてくれることがあります。それが大 事なんです。なぜなら、新たな一面を知ることで支 援の手法が変わってくるからです。この人にはこんな一面があったのか、この人にはこんな才能があっ たのかと新しい発見があると、それに合わせてカリキュラムを考え直したり、その方にかける言葉が変わったりするんです。つまり、文化芸術に関わることで新たな一面が見つかり、提供できる福祉の 質が上がるということです。
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いわき市内の寺院で開催されたパーランクのワークショップの模様。

それにもうひとつ。今、障害とアートというと「アールブリュット」という言葉がよく聞かれる ようになりました。それ自体、とてもすばらしい 取り組みだと思います。しかし、知的障害があって、 絵がとても個性的で、といった文脈が一人歩きしているような気がしています。そうでない人たちの表現はどうなるでしょう。本来は障害の有る無し、障害の種類に関わりなく、すべての人たちの表 現が受け入れられる場があって欲しいなと思うし、 それを作っていきたいと思っています。
そのような場づくりは、支援する側にもメリットがあります。僕たち障害福祉の業界では、障害のある方にとっての社会の接点が僕らしかないという場合が少なくありません。ですから、サービスを提供する側の世界を広げていくことが、障害のある方の世界を広げることにもなるんです。私たちが狭い世界しか知らないと、そういうサービスになってしまうということなんですね。私たちが文化芸術のイベントを企画するのは、より充実した福祉を実現したいから、ということに尽きます。
障害のある方たちが社会に出る、あるいは自立した生活を送るための支援をする時に最も重要なのがアセスメントです。アセスメントとは、利用者が何を求めているのかを正しく知り、それが生活の中のどんな状況から生じているかを確認することです。でも、その人をずっと同じ環境で、例えば毎日支援センターの中で見ていても、その人の一面を理解したことにしかなりません。違う環境に身を置く、違う感性に触れる、あるいは音楽や芸術に触れることで、その方の違う側面が表出します。それを見ないといけないんです。
つい最近も、事業所に電子ピアノを持ってきたんですが、それを見た瞬間に積極的になって、普段は苦手な会話が違和感なくできた人がいました。そういう力があるからこそ、文化芸術をイベントに取り入れるようにしているんです。

―関係性をずらす・失敗を裁かない

―北山さんたちが企画しているイベントは、一見すると、音楽やスポーツをシンプルに楽しむものに見えますが、かなり綿密に障害福祉のメソッドを企画の中に織り込んでいます。北山さんによれば、1つは「立場を逆転させる」ということ、もう1つが「承認ポイント作る」ということ。それがイベントに生かされ、障害のある人たちの自信の回復に繋がっているのです。
北山 障害福祉において一番重要なのは障害のある方たちの自信の回復です。心に障害のある方は、どうしても「自分はこれができない」と卑下してしまいがちで、それが新しいことへのチャレンジの機会を奪ってしまったり、家に引きこもらせてしまう原因にもなっているんです。でも、逆に言えば少しずつ自信を取り戻し、自分にもこんなことができた、これをして喜んでもらえたと、そういう体験を繰り返していくことで、少しずつ自分を認めることができるようになり、それが自立に繋がっていく力になります。
そこで意識しているのが、立場を逆転させるということです。教る人と教えられる人というような従属的な関係を作るのではなく、いつもは支援される側にいる人たちがイベントでは支援する側に回るといったような局面を作る。そのことで自信を取り戻すきっかけを作るわけです。前段でも話しましたが、新しい一面を発見するということでもあります。いつものカリキュラムでは冴えない表情をしている人が、楽器を持った途端に元気になって、コミュニケーションが円滑になり、いつの間にか子供たちに楽器を教える側に回ってしまう。お客様をもてなす側に回る。そういう逆転を作っていく。これが大きな自信に繋がるんです。
自信を取り戻すという意味では、失敗が許される環境を作ることも大事です。失敗ではなく成功、できたことを認め合う場を作るということです。どんなに単純なことでも、どんなに簡単に見えることでも、障害のある人たちにとっては大きなチャレンジなんですね。例えば、ずっと家に引きこもっていたような人は、イベントに参加したということだけでもすごい進歩です。だから「イベントに来れたじゃん、すごいじゃん」とそれを認める。そういう小さな成功体験、小さな自己承認を積み重ねていく必要があります。
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ごちゃまぜイベントは子どもの姿が目立つ(左)。同法人では清掃活動「グリーンバード」(右)にも取り組む。

障害福祉の中に、業務の切り出しというものがあります。障害のある人にもできるよう、仕事を細分化していくというものです。例えば、みんなで椅子を1 つ作るというとき、それぞれが1脚ずつ作るのではなく、作業を細分化して、木を切る人、ヤスリをかける人、釘を打つ人、というように切り出していくわけです。すると、何かしら障害のある方にも関われる仕事が生まれます。このような業務の切り出しを地域の企業に依頼するのも私たちの仕事です。切り出しによって仕事が生まれ、それによって僅かでも報酬を得ることができれば、働く喜びが生まれ、大きな自立につながるからです。
その意味で、上手下手を競わない生涯スポーツや、みんなで即興的に音楽を楽しんだりする文化事業は障害福祉ととても親和性が高いように感じます。それだけ自己承認の機会があるということです。これは文化芸術の持つ大きな効能ですよね。即興演劇のワークショップなどでも「失敗していい」という環境を作ることが重要だと聞いたことがあります。文化事業は、障害福祉にも繋がる懐の深い事業なのだと思います。

―地域と関わってこその障害福祉

―北山さんたちは今年から組織をNPO法人に変えました。障害福祉サービス事業だけでなく、地域づくり事業を展開するためのNPO化だと北山さんは言います。NPOにすることで、地域の担い手を理事として組織に迎えることができるようになったり、自治体の助成金などが活用しやすくなったりと、様々なメリットがあるからだそうです。しかし、障害福祉の事業所なのに、なぜそこまで「地域」との関わりを目指すのでしょうか。

北山 地域でイベントをやって、それが障害福祉とどういう関係があるの?  とよく聞かれるんですが、地域づくりはとても大事です。なぜなら、障害のある方が仕事に就いたら、彼らと一緒に接するのは普通に生活しているみなさんだからです。障害福祉に関わる人間や、障害のある人たちを雇う経営者だけが福祉を理解していればいいというわけではありません。地域全体の福祉力を上げていかないと、本当の意味で障害のある人たちの自立した生活を実現することはできません。ですから、地域の人たちを「ごちゃまぜ」のイベントに巻き込み、障害を障害とも思わないような地域を作っていきたいんです。
ただ、僕たちは音楽や芸術の専門家ではないので、地域のミュージシャンやアーティストに協力を仰ぐことになりますが、そのような協働や共創によって、地域の人たちとのコラボレーションの機会が増えていきます。先日行った音楽イベントでは、いわき出身の音大生や美大生が企画に関わってくれました。そうやって地域の人たちとコラボレーションしていくうちに面白い企画やイベントが生まれ、地域の担い手が関わってくれることを通じて、少しずつ地域の人たちが参加してくれるようになる。するとこれはもう障害福祉ではなくて、まちづくりなんです。
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地域と関わらなければ福祉にはなり得ないと北山さん。

音大生や美大生は、私たちにとっては表現の達人ですが、同時に、彼らにとって僕たちは福祉のプロです。つまり、僕たちのごちゃまぜイベントは、表現に関わる人たちが障害福祉のメソッドを学ぶ機会にもなっているということです。福祉の人材教育も兼ねているわけですね。このように、文化芸術というものを媒介にして、異なるジャンルの事業を接続していくことが重要だと思います。文化芸術の振興が、障害福祉の充実、地域の人材教育の推進、ひいてはまちづくりにもいい効果をもたらすということではないでしょうか。
―文化芸術の力を借りて、地域をごちゃまぜにしていく
―これまで毎月のようにごちゃまぜイベントを開催しているソーシャルデザインワークス。イベントを継続して開催できる背景には、独自の評価基準があるようです。何をもってイベントの成功とするのか。そこには、障害福祉ならでは考え方にプラスされた、北山さんの理念がありました。そしてその理念は、既存の文化政策や事業に対する新たな視座を与えてくれます。

北山 毎回イベントを行った後にはアンケート調査をするようにしていますが、イベントが成功だったかどうかは、参加者の心に何が起きたのかを見極めないと判断できません。自信につながったとか、少し気持ちが前向きになったとか、新しいことにチャレンジしたくなったとか、あるいは、それによって支援の方法が充実したとか、そういう声が出てきたら成功だと思います。しかしいずれにしても、やはり一人ひとりの心の中に起きたことにじっくりと向き合わなければ、効果があったかどうかは分からないんです。
もちろん、イベントに何人集まったかというのは重要だとは思います。でも、実際に千人の人が参加しても、それが自信の回復や、立場の逆転や、ごちゃまぜの普及につながらなければやる意味がありません。人の心に何が起きたのか、そこに向き合うのが僕たちの仕事ですから、当然、自分たちの企画するイベントも同じようにして参加者の心に向き合わなければならないと思っています。
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就労移行支援業務の傍ら地域で様々な企画を実施しているソーシャルデザインワークスの皆さん。

評価基準はもう1つあります。地域との関わりが増したかどうか。僕たちのイベントは地域づくりのイベントでもあるので、イベントによって新たなコラボレーション先が生まれたり、新たな企画が生まれたり、次に繋がる動きを出していきたいと思っています。ふらっとイベントに参加してくれた人が僕たちの理念に共感してくれて、こんなイベントをしようと企画を持ち込んでくれたり、普段のカリキュラムの講師として参加してくれたり、地域の皆さんとの新たな接点が生まれる。それも評価したいですね。なぜなら、地域の人たちの接点が増えれば、それだけ障害に対する理解も深まるということになるからです。
地域の人たちが繋がって、障害に対する理解が深まり、多様性が守られていく。そういう社会は、きっと障害のある方にとって暮らしやすい社会だと思いますし、障害のない人たちにとっても暮らしやすい社会もあるはずです。地域をごちゃまぜにしてくことで、僕はそれが実現できると信じています。そして、文化芸術には、多様な人たちをごちゃまぜにしていくという力があると思います。
人々のあらゆる垣根を払い、ましてや障害のあるなしなんて関係なく、みんなで表現を楽しみ、認め合う。そういう場を作ることができるんですね。つまり、文化や芸術には、地域全体をごちゃまぜにする力があるということなんです。それは政策の面でも同じはずです。障害福祉も教育も観光もまちづくりも、いろいろな地域の取り組みをごちゃまぜにしてしまう力が、文化政策にはあると思います。そういう力を地域に波及させて初めて、いわきが真に多様性を受容できる「ごちゃまぜな街」になっていくのではないでしょうか。

PROFILE
北山剛
北山剛

北山 剛(きたやま・つよし)
代表理事CEO/エグゼクティブプロデューサー

1979年福島県いわき市生まれ
東北大学工学部卒業、同大学院情報科学研究科修了

株式会社LITALICO(障害福祉事業会社では唯一の東証一部(現プライム)に上場)の創業メンバーとして26歳で参画。原体験は創業当時に出会ったある男性との対話。交通事故で重度身体障害になり、以降20年近く24時間介護施設で生活し人生に絶望しきっていた男性。その絶望感は本人から生まれたものではなく、周りにいる少ない人間が勝手に諦めることにより生み出されたもの。そして、多様性を拒絶する福祉業界の壁。「障害があっても働きたい意志があるなら、それを何とか実現するのが障害福祉の使命ではないのか?」と自分たちの志を話そうものならバッシング、全否定。これは、誰に何を言われようが若者なりの想いを貫くしかない。想いを実現するまでやり切るしかない。そんなパッションで10年以上にわたり、社会的課題をビジネススキームで解決していくソーシャルビジネスが成り立つことを実績で示す。その後、同社から独立、再びゼロから起業。

NPO法人ソーシャルデザインワークスでは「仲間の幸せをチームで追い求め、諦めない一歩を踏み出せる社会を創る」というビジョンを掲げ、障害のある方や生きにくさを抱える方々に向けた自立訓練・就労支援サービス事業を軸に多様なごちゃまぜの世界観を地域の方々と共創し、全国展開を目指している。

はたらき方の多様性を自ら体現するために2017年〜2020年の3年間、家族と共に南米ペルーで移住生活を送った。

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