“諦めなくていい”場所へ

法人の理事を務める傍ら、いわき市平上荒川にオープンした「ソーシャルスクエア スポーツ」の立ち上げに深く関わる今泉俊昭へのインタビュー。自立支援に「スポーツ」というコンセプト設計から、内装デザイン、さらにはその工事や施工まで。様々なものをデザイン・実装する今泉が考える福祉の原点に迫ります。

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今泉 俊昭

ソーシャルスクエアいわき店 サービス管理責任者 / 法人理事

ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していくのが「Crew’s Voice」のコーナーです。

今回紹介するのは法人の理事を務める傍ら、いわき市平上荒川にオープンした「ソーシャルスクエア スポーツ」の立ち上げに深く関わる今泉俊昭へのインタビュー。自立支援に「スポーツ」というコンセプト設計から、内装デザイン、さらにはその工事や施工まで。様々なものをデザイン・実装する今泉が考える福祉の原点に迫ります。

−スポーツと余暇の「支援」

ソーシャルスクエア スポーツが開所した「あらたな」という施設は、元々は焼肉屋さんでした。当初は「そのまま使う」って話だったんですが、ある日見に来たら全部まっさらの状態になっていて。その広さを見て、運動に特化した事業所ができないかというアイデアが浮かんだんです。今までも運動を取り入れた活動はしてきましたが、メンバーさんがすごく生き生きしていて、体を動かすってことはメンバーさんにとっても楽しい活動なんだということは分かっていたんです。だからこのスペースの広さを実感したときに、直感的に「ここでスポーツをやりたい」と思っていました。

もともとスポーツが大好きなんですよ。週に1回か2回はフットサルやってたりしますし、元々小さい時から体を動かすのは大好きで。自分が楽しいと思えることがメンバーさんにとっても楽しい時間になっている、というのがすごくいいんです。自分の好きなことが誰かの生きにくさを少しでも減らすための役に立ってるかもしれないわけですから。

それにスポーツというのはそもそもが「ごちゃまぜ」です。私が入っているフットサルのグループでは、普段LINEでやり取りするんですが、メンバーが50人くらい入ってて、そのうち実際に知ってる人は1割くらいしかいないんです。ほぼほぼ知らない人なのに、集まってフットサルをするとすごく楽しい。始まっちゃえば、「パスくれ」とか「撃て!」とか、単語だけでコミュニケーションが成り立っちゃうからかもしれません。コミュニケーションが苦手な人も多いけど、なんだかんだ楽しそうにやっていて、十分楽しさを共有できるのがいいんです。楽しく体を動かすってことが、メンタルの回復を促す効果があるんじゃないかっていうのはずっと感じていました。

自立支援においては、その1日を楽しく過ごすことができた、ということがものすごい効果を生み出します。内郷のソーシャルスクエア いわき店で自立支援に関わるようになって、いかに自宅に引きこもってしまっている人が多いかを痛感しました。その人たちにとっては、家から一歩出るというところから自立支援が始まります。そして、いかにスクエアに通ってもらうか、スクエアで過ごす時間を楽しかったと思ってもらうにはどうすればいいかを考える。「楽しい時間」を作ることこそ支援、というわけです。

ですから、ソーシャルスクエア スポーツは、「楽しい時間」の一つの手段としてスポーツを取り入れたという形になります。この「楽しい時間」というのは、どこか軽い響きに思えますが、本当に重要です。楽しい時間がないと、生活も仕事もつまらなくなってしまう。人生そのものが意味のないようなものに思えてしまうんです。ですから、ソーシャルスクエアでは「余暇の支援」などにも積極的にアプローチしています。

ソーシャルスクエア いわき店では就労支援も行なっていますが、せっかく仕事を手にしてもその職場に定着しなければいけないので「定着支援」が欠かせません。その定着支援の際に需要なのが余暇の支援なんです。障害のある人はひとりで楽しむことが苦手な人もいらっしゃいます。ですから、余暇を一緒に体験することもまた支援になり得るんです。一緒にサッカーする。一緒に映画を見たり、おしゃべりしたり、そこにいるだけだっていい。「一緒に楽しい時間を過ごす」っていうことは、立派な支援なんです。

そしてそのうえで、ソーシャルスクエア スポーツでは、苦手な人だって楽しめるようなスポーツを取り入れたり、誰もが同じレベルで楽しめるスポーツを提供していきたいんです。そこで苦手意識を持ってしまうと、体を動かした時の爽快感とかが得られる前に、スポーツそのものを避けてしまうようになってしまうからです。

汗をかくと不思議と頭がスッキリするじゃないですか。上手い下手は関係ない。だからスポーツって辞められないんですよね。ぼくも、どんなに忙しくても週に1回はサッカーをします。それは、体を動かすと気持ちいいだけでなく、それが生活のリズムを整えることになり、仕事へのモチベーションを上げることにもなっているからです。最近は、仕事をいかに専門的に効率よくこなすかが注目されていますが、実は仕事していない時間もとても大切なんです。

−やりたい! を言える場所に

空間デザインも大好きで、もともと内装や家具の制作などもやってきましたが、自分の特技が通ってくるメンバーさんにプラスになったらそれはとてもうれしいです。福祉だからこういう事業所にしなければならないって決まり事は本来ありません。メンバーさんだっておしゃれな空間やリラックスできる場所を求めているはずです。「ここならまた来たいな」という思いが生まれて、それが自立の一歩につながるんじゃないでしょうか。

でも、その根底には、メンバーさんだけでなく、そこで働くクルーの思いも表現されていなくちゃいけないと思っています。そこで働くクルーが自分らしさを活かせる場所でなければ、誰かのその人らしさを活かすことはできないと思うからです。クルーが思い切り自分を出せるからこそ、自分も自分を出していいんだとメンバーさんにも思ってもらえる、つまり、メンバーさんにとっていい場所と、クルーにとってもいい場所って、重なるはずなんです。スポーツが苦手なメンバーさんでも、ものづくりが好きとか、何か作業してるのが好きだという人もいます。今回も、メンバーさんと一緒に棚を作ったりしました。

そこで大事なのは、やりたいって言える環境を作れているかどうか。何か新しいことをやろうとすると、「ダメって言われるかもしれない」と思ってしまいがちです。特に障害のある方はそう。周りに「お前にはそんなことできない」と決めつけられてしまうこともあるし、家族や支援者もそれを「守っている」と錯覚してしまうんです。ですから、やりたいことを「やりたい」と言えて、それを実際にやっている、その充実した表情を家族に見せられるような場所にしたいですね。

今スクエアに通っているメンバーさんで「ドッグトレーナーになりたい」という夢を持っている方がいます。家族は「試験だってあるし難しいんじゃない?」って思っていたようですが、本人がやりたいって言ってるからまずはやらせてみましょうって家族含めた会議をして実際にチャレンジできる環境を整えたら、見事試験に合格したなんてことがありました。そういう「やりたい!」「やれる!」「できた!」というプロセスを経験することで、家族や周りの見方も変わっていくと思うんです。その意味でいえば、スクエアには、家族だからこそ知らない顔があるかもしれません。

障害のある人のためにも、私たちのためにも、働きやすさを開拓するのがソーシャルデザインワークスのこれからの役割のひとつです。諦めなくていい働き方を開拓できないと利用者さんもがっかりしてしまうでしょうし。働いている人たちが自己実現できているからこそ説得力が出てくると思いますし、働いている人たちのモチベーションが下がっていたら、誰かの就労支援なんてできません。会社の風通しを良くすることが居心地を良くし、居心地の良さがメンバーさんの楽しい時間になって、それが自立支援になる。そういう場所にしていきたいですね。

ー社会の側から見る、という変化

そんなことを考えるようになったのも、やはりソーシャルデザインワークスに入ったからこそだと思います。一番変化したのは「社会」の側を見るようになったことです。今まで自分は障害福祉の「中」だけで考えてきましたが、外側の人たちは障害のある人をどう見て、どう接しているのか、どう理解をしているのかを以前より考えるようになりました。法人に入ってから、関わる人たちが今までと全然変わってきて、むしろ福祉と関係ない知り合いが増えてきました。じわじわと広がってきている印象は確かにあります。

とはいえ、社会の側の障害に対する理解はまだまだ深まっていないし、多くの人たちにとって障害は「わからないもの」だと思います。福祉側に立っているぼくですら理解がまだまだだと思わされたことが以前ありました。コンビニで買い物して出る時、ちょうど白杖を持った視覚障害の人が店に入って来ようとして、私はその人に危険が及ばないかどうか見守っていたんです。すると、たぶん東日本国際大の留学生だと思うんですけど、なんのためらいもなく声をかけ、腕を取って一緒に入っていったんです。それを目の当たりにした時に、自分はまだまだ理解が浅いと痛感しました。

それで、白杖を持った視覚障害者を街で見た時にどう対応すべきかネットで調べたら、ガイドラインに「積極的に声をかけましょう」って書いていあったんです。ガイドラインに書いてあるのに自分はそれができていない。それでハッと気づかされました。ですから、そこで誰も躊躇せずに手を差し伸べられるようになったら「ごちゃまぜの世界」が成立していることになるのかもしれません。その学生は意識すらせず、無意識にやっていた印象でした。それが当たり前なんでしょうね。困っている人にすっと手を差し伸べれるような人になりたいと改めて思った出来事でした。

そういう社会にしていくためにも、諦めてなくていい場所、「やりたい!」を表現できる場所に、ソーシャルスクエアを育てていければと思っています。

PROFILE
今泉俊昭
今泉俊昭

今泉 俊昭(いまいずみ・としあき)
理事/クラフト作家

1977年神奈川県生まれ。大学卒業後、住宅メーカーで5年経験を積んだ後、社会福祉法人に入職。企業での経験を活かして、ジョブコーチとして3年間就労支援を経験。その後、就労移行支援事業所で8年、就労支援員、サービス管理責任者として当法人でも実践を積み、2020年8月から法人の理事として運営管理に関わり、現在はソーシャルスクエアの支援クルーの採用・定着、育成からケアなど「人事」の部分に携わっている。

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