【書評】佐藤可士和の超整理術
新連載!ソーシャルスクエアへ通うメンバーさんによる書評・「生きづらさ」をかかえる、わたしたちが選ぶBOOKS。ここでは敢えて新刊に絞らず「生きづらさをかかえている方々の視点」で選ばれた本の紹介と、その内容について、筆者が感じたことや参考になったこと、思ったことを書き綴っていただいています。生きづらさをかかえるかたも、そうでないかたも、ぜひ次の一冊の参考に。
佐藤可士和の超整理術(日経ビジネス人文庫) 佐藤 可士和 著
今日の朝ごはんに私が納豆を食べた話は仕事の場では必要ない。当然です。何を言い出すのだとお思いでしょう。私もそう思います。整理ができない人は、それをうまく理解できないのではないかと思います。整理が苦手で、ついつい余計な話ばかりしてしまう私のような人のためにこの本を紹介します。
私は、この本に図書館で出会いました。整理という言葉に惹かれました。真っ白な装丁に、タイトルと著者名が書かれてるだけ。実にシンプルです。
著者は、国立新美術館のシンボルマークデザインやユニクロのクリエイティブディレクションを行ったアートディレクターです。テレビでも取り上げてるのを見たことがあるので、ご存知の方も多いのかと思います。
すべては整理から始まる
この本は、そんな著者が整理についてまとめた本です。目次で「すべては整理から始まる」と言い、空間、情報、思考についてそれぞれ整理する方法が書かれています。
私は話をするときに、どうしても脱線が多くなってしまいます。それは、部屋の掃除でも同じでした。まさに片づけられない女だったと思います。今は、だいぶ改善しました。この本を読み終え、最初にしたことは、書けなくなったボールペンを思い切って捨てることでした。私は、なぜか書けなくなったボールペンに芯を入れ替えることもなく持ち続けていたのです。なんとなく、そこにあり、場所を取っていました。自分の持ち物が整理できていないと、今の自分に何が必要なものなのか見えなくなっていきます。それは、恐ろしいことです。物は溢れ続け、思考は混乱し続けます。
私は思いました。なぜ今までボールペンを整理しなかったのだろう。捨ててみると、思いのほか、すっきりしました。整理することが得意な人は、整理した後に感じるすっきりという快感をもちろん知っていますよね。私も書けなくなったボールペンを捨てることで、すっきりすることを体感しました。疲れて掃除なんかやりたくないなと思っていても、無理矢理自分を奮い立たせてやってみると、終わったときに、さっぱりしてるというのが整理整頓なのだと知るきっかけにもなりました。
「この本で僕が述べる整理術とは、整理のための整理ではなく、快適に生きるための本質的な方法論」(ℓ12)
著者は、持ち込まれる仕事を次々とデザインで解決していきます。整理術を磨くと「仕事の精度も劇的にアップしている」(ℓ12)ということでした。整理に注目するだけで、仕事の精度があがり、快適に生きられるとは驚きです。
さらに著者は続けます。
「もやもやした霧がパッと晴れたような爽快感」(ℓ13)
まで感じるようです。
段々、整理に興味は持っていただけましたでしょうか。整理したいという気持ちが沸いてきたでしょうか。私の片づけられない話とその後の爽快感についてはこの辺にして、実際にどう整理していくのかを読み進めます。
「クライアントから問診のごとくヒアリングを重ね、相手の抱える課題や伝えたいことをきちんと整理することで、表現すべきかたちが必然的に見えてきたのです。ですから“ドクターのように診療する”というたとえがぴったりくるのです」(ℓ27)
著者は、アートディレクターという仕事をそう語ります。著者の元へやってくるクライアントは、迷える子羊です。。
私は、この本を著者のようなドクター側ではなく、「どうしたらいいのかわからなくて訪れるクライアント」(ℓ31)側に立ち、読み解いていきました。前述で私は、片づけが苦手だと言いました。具体的に何から始めていいかさえわからず、途方に暮れていました。読み進めていくうちに、私は、著者のところを訪れるクライアントと同じだと思いました。
どうしたらいいのわからないクライアントは、「現状をなんとか打開しようと模索してる」(ℓ26)のです。それが私だったのです。片付けが苦手で良いとは思っておらず、常に解決策を探していました。本にも書かれていますが、著者の元へは様々な依頼が寄せられているようです。アートディレクターの著者は、問題解決のプロなのです。そのプロが、きちんと整理することが大事だと説きます。
思考の整理
私は話をするときに、脱線してしまうので、主に思考の整理に注目しました。
「メッセージを相手に伝えるというのは、本当に難しいことです。伝わっているはず、と自分では思っていても、実際には伝わっていないことの方がはるかに多いもの。全体の半分くらい伝わればいいほうで、100%わかってもらうのは至難の業といっていいでしょう」(ℓ38)
自分の大切な話や相談するときは、要点を絞らないと伝わりません。かつてわかる人だけわかればいいと、投げやりになった過去が私にはあります。しかし、そこには、孤独な戦いしか残されていなかったのです。思考の混乱はいっこうにおさまりません。
「何のために捨てるのか?」といえば、本当に大切なものを決めるため。そして、大事なものを、より大切に扱うためなのです」(ℓ215)
自分の向かっている方向が分からない
どうしたいのかわからないと感じるときがあるときが、私にはあります。そんなとき、大切なものを見つけるために、捨てるものを見つければいいのだとわかります。
著者が立ち向かうクライアントになる準備はできましたか?
私の問題は、脱線が多く、話したい問題の本質が伝わっていないと感じるときがたびたびあることです。話し相手と相互理解を深め、気持ち良く会話を終えたいと考えています。相手がもやっとしてしまう私の話を整理することで、より関係を深めたいというのが目標です。
まず著者はクライアントの問診から始めます。
「皆、結果としてうまくいってないという現状はわかっているのですが、何が原因なのか、何が本質的な問題なのかがなかなかわからないのです」(ℓ50)
仕事の依頼で著者を訪れる人も、私も同じように自分のうまくいかない理由が見つからず、問題解決ができずにいることがわかります。一人で自分の問題を解決するということがいかに難しいことであるかも経験上わかります。
「“何がいちばん大切か”」(ℓ55)をはっきりさせる必要があるのです。私は、すぐ大切なことを見失いがちです。だから、整理が苦手だったと言い換えることができるでしょう。
「格好いいとか面白いとか思って作ったデザインを見せても、相手にピンときてもらえないことがしばしばありました」(ℓ38)
どんないいアイデアだと思っても、本質をきちんと見つけられていないものは、他人がピンとこないものなのです。
私が、仕事の話をするときに、朝ごはんに食べた納豆が、私に関わりのある産地からやってきたもので、嬉しかったなどと発言したらどう思うでしょうか。多くの人が、全く的外れだと思うのではないでしょうか。大事なのは、今は仕事の話であり、納豆の話は余談です。場をなごませるために話すのは良いかもしれませんが、仕事の話をしたくてやってきた人には、響きません。
自分のことを知ってもらうために、話す前に考えておくべきこと
「人に説明するときに、どんなふうに紹介したらいいだろう」(ℓ150)
やみくもにこちらの主張をわかってしまおうとしても、うまくはいきません。多くの事を言いたくなるのもわかりますが、相手にとって必要な情報を共有してこそ、深い理解につながるのだと思いました。
何のために空間、情報、思考を整理するかといえば、より大切なものを明確にし、すっきりして、爽快感を味わうためだというのがわかりました。
落ち込んでしまって、気分が上がらない。悩みで頭の中が覆いつくされている。どう対処したらわからない。身体が疲れているときは、休めばいいのです。クライアントの立場になり、この本を読んでみると、すっきりします。多少、部屋が散らかっていても、よしとしましょう。
「整理して新しい視点を見つけるということは、それまで見えなかったものが見えてきて、視界がクリアになるということ」(ℓ218)
私は、この本を読んで、ボールペンを整理しました。それだけでもいいと思っています。目の前にある必要なものとそうではないものに気づき、少しずつ自分の課題を見つけていく。それができたら、誰かに伝えてみる。自分の中で問題を明確にしてから、話し合いにのぞむ。そうするのとそうしないのとでは、雲泥の差があります。
「“押しが弱い”と言うのは、裏を返せば、”奥ゆかしい“ともいえる」(ℓ134)
と著者は言います。それと同じように、考えがいつも混乱しているというのは、多方面から物を常に考えているとも言い換えることができるのです。多方面から考えることができる人が、沢山のアイデアの中から本質を見つけることができるようになると、ダイヤモンドのように輝くかもしれません。埋もれていた大切なものの本質に気づき、余計なものを捨てることができたとき、より大切なものを大切にできると思います。
思考の渦に飲み込まれず、すっきりするという快感を味わい、はっきりと大切なものに気づけたとき、きっと世界は変わっているはずです。
「手ぶら」で歩いてみる
人間関係でも言えると思います。生きていれば、嫌な事を言われたり、傷つけられたりすることがあると思います。その人はあなたにとって大切な人ですか?特に重要ではない人ならば、距離を置き、聞き流してもいいと思います。物事の取捨選択はいつでも可能です。全ては、あなたにゆだねられています。重たい荷物をおろし、大切なものをより大切に扱えると、なぜあんなに重要ではない人物の言葉に傷つけられていたのだろうと思うこともあります。
整理することで、身軽になって、自分に「こんな魅力があった」(ℓ32)と気づけたら、大成功です。
私は、やるべきことを見失いそうな時に、本を整理するようになりました。すると、今、求めているものとそうでもないものが視覚で感じることができます。著者が言うように、すべては整理から始まるのだと感じます。整理とは、前向きになるための手段なのではないかとこの本を読んで思いました。
この本を私は、伝えることが苦手な人やどうしても荷物が多くなってしまう人におススメします。著者は“手ぶら”(ℓ79)で歩くことに解放感を感じるそうです。
重い荷物を常に背負っているような人が、一時でも”手ぶら“で歩いてみるきっかけになればいいと思います。
(書評ライター:とまと)