自分が生まれ育ったまちを好きになりたい

福島県いわき市の地域福祉分野にて7年間従事、自らもまちづくりに参画したいと考えるようになったという渡邉。現在、アートや文化を活用したまちづくりを模索しながら、日々の仕事の中で感じることとは?

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渡邉 瞳子(わたなべ・とうこ)

SOCIALSQUARE 上荒川店 スクエアクルー/学芸員

ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していく「Crew’s Voice」のコーナーです。

今回は2019年12月入社、ソーシャルスクエア 上荒川店自立訓練(生活支援)の支援員として働く渡邉 瞳子をご紹介。福島県いわき市の地域福祉分野にて7年間従事、自らもまちづくりに参画したいと考えるようになったという渡邉。現在、アートや文化を活用したまちづくりを模索しながら、日々の仕事の中で感じることとは?

※掲載内容は取材当時のものです

 

自分の幸せと社会貢献

元々、3.11震災のボランティアをしていた繋がりで、地元いわきの社会福祉協議会で仕事をしていました。仕事内容はわかりやすく言うと、福祉関係に興味関心のある地域の方をコーディネートしていくようなお仕事でした

その地区で行われているお祭りやまち歩き、イベントごとにもよく顔を出していて、いわきの歴史や文化を知って、地元住民の方々とお話しする機会はすごく多かったように思います。地域でボランティア活動、民生委員さんやまちづくり活動をされている方をバックアップするようなお仕事が多かったのですが、一緒に仕事をしていくうちに自分でもいわきという地域を盛り上げていくことってできないのかなと思っていました。

そんな気持ちの時に、SNSを通じてソーシャルスクエア の運営法人、ソーシャルデザインワークスのことを知りました。「ごちゃまぜ」という地域の方々と障害のある方が自然に交流する機会づくりの記事を読んだんです。情報をフォローしていくうちに、そこが障害福祉事業をやっている法人だと知りました。福祉だけじゃなく、まちづくりも一緒に取り組んでいるところも魅力的でした。

【ごちゃまぜ】
障害の有無、国籍、年齢、性別、文化など異なる人が存在する社会を楽しむための自然な機会を「ごちゃまぜ®」と題し、自分たちがやりたいと思え、みんなで楽しめるまちづくり企画を地域の中で運営しています。その地域にとって大事なことをその地域の人たちと共創しています。

ミーハーですがおしゃれで自由で楽しく働けそうなところだなと。その後、実際にごちゃまぜイベントにも参加するようになって、運営の仕事をしているクルーがとても生き生きしているように感じたんです。その頃やっていた仕事では、ひとりで地域のことをなんでもやらなければならない感じがあって自分はこうやってチームで働く方が向いているんじゃないかなと思い始めて、求人も出ていたし思い切って転職してみようと思いました。

 

今なら見えるもの

いまは6名ほどの利用メンバーさんを担当しています。身体障害の方から、精神・発達障害の方まで幅広い障害特性のある方がいらっしゃいます。自立訓練に通われているメンバーさんは家族以外との接点が少なかったり、地域社会とのつながりが希薄だったりする方が多いです。まずはスクエアが安心できる「居場所」になることが第一歩。悩みや不安を話すことができて「安心できた」「話せてよかった」と言ってもらったときには、信頼関係を作ることができたなと、すごくやりがいを感じます。

「そのままでいいんだよ」と伝えること、ご自身で「自己肯定感」を持てるような支援を特に心がけています。受け入れること、共感すること、否定をしないコミュニケーションを大事にして、まずは「そう思ったんだね」と肯定してから、目標に向かっていくためにどうするかを対話していくようにしています。

継続して安心感を持ってもらうと、だんだんとコミュニケーションに慣れたり、集中して軽作業や実習に取り組むことができるようになったりと、そのメンバーさんの「できること」が増えていく。「対人支援」という仕事は、その方の成長や成果を肌で感じることができるところが醍醐味なんじゃないかなと思っています。

その他にも、自分の持っている資格や勉強したことを日々の仕事に活かすことができるところも、私にとっては「自分の幸せ」のひとつでした。例えば、私は図書館司書の資格を持っているんですが、そういう仕事につきたいという利用メンバーさんにアドバイスできたり、学芸員の資格を生かして美術館とコラボしたイベントをスクエアで実施できたりと、アイディアを実行しやすい環境なのは、とてもいいなと感じています。

前職の取り組みでは高齢者や子育て世帯向けのものがほとんどで、障害福祉という分野への取り組みは少なかったように感じます。私自身、いわきの地域福祉分野で働きながら障害福祉のイメージをほとんど持っていなかった。地域社会の支援が必要な方のマップづくりというのもこの分野では大事な業務の一つなのですが、高齢者世帯が一番多く、地図のマークがそれでいっぱいになるような状況でした。障害のある方のいらっしゃる世帯は、高齢者や子育て世帯ほど顕在化してこない状況があるのかもしれません。

数の上でもご高齢の世帯が圧倒的に多く、障害のある方の数は少ない。また、外見から判断できる障害ばかりではない。本当は支援が必要だけど、地域の人に家族や親戚の障害を知られたくないという気持ちや支援を求めるのは恥ずかしい、そういった要素が重なって「必要な支援が届かない」状況を生んでしまっていることもあると思います。

社会の中にはいろんな方がいる。もちろん障害のある方もいて、そのイメージをきちんと持った上で物事を考えていく。その「感覚」が大事なんじゃないかと、今はすごく思います。

勤務中の渡邉

自分が生まれ育ったまちを好きになりたい

大学時代から「いわき」という地域を学ぶ機会が多くありました。体系化された学問としての歴史というよりは、生活スキルや文化・風習など「人と地域」に興味関心が向いていて、その延長で美術館や博物館も好きで、学芸員の資格も取りました。

他のクルーは海外での生活経験があったり、U・Iターンの方も多いのですが、私は珍しく元々いわき出身で、いわきから一歩も出ずにずっと住んでいます。ずっと「自分が生まれ育った町を好きになりたいな」と思っていて、その延長でまちづくりやコミュニティデザインに関心があったんだと思います。

もやもやと形はなっていないけれどそれらが自分の中では繋がっていて、地域の魅力を知りたい、伝えたい、自分が生まれ育った地域のことを「自分ごと」としてみんなで考えられたらいいなと思い続けていました。

とあるイベントで「福祉とアートの親和性」について知る機会があったんです。そのイベントの中で登壇されていたはじまりの美術館の館長・岡部さんが『福祉もアートもどちらも「近寄りがたいイメージ」を持っていて、よく知らない、触れる機会がないものなので自分とは関係ないことだと捉えられがち。でも福祉もアートも、人が生きていくためには不可欠で根源的なものだから本当はすごく身近なもののはず』というお話をされていたんです。

自分の中でその話を聞いたときに、自分の障害福祉の仕事の中にアートや文化があるのが自然だし、逆にアートや文化、広くは自分の住む地域の中に自然と福祉が織り込まれているのが自然なあり方なんじゃないかなと思い始めたんです。

自分の仕事の中でどうやって体現するかまだまだ模索中なのですが、その第一歩として、はじまりの美術館さんとコラボレーションをして障害福祉の事業所であるこのソーシャルスクエア上荒川店のエントランスを期間限定で「まちなか美術館」にするプロジェクトを行いました。「きになる⇆まちなか美術館@いわき市 平」と題された展覧会は、美術館を飛び出していろいろなお店や施設で開催されました。これは実際に展示場所のひとが「きになる」作品を選んで展示しています。

展覧会の様子

ただ作品の展示して終わりではなく、作品を通してスクエアの利用メンバーさんと地域の方がコミュニケーションでき、つながりがつくれるような空間づくりが出来たのかな、と思っています。ふらっと作品を見に来てくれたお客さんが、スクエアのような障害福祉事業所を知って「こういうところがあったんだ」と声をかけてくれたりもしました。

もうひとつ、今年の冬はスクエアが入居しているシェアスペース「あらたな」の共有スペースにこたつを設置してみました。ちょっとした非日常を作り出して、自分が素敵だなと思えるものを仕事の一環で作り出せたら嬉しいなという気持ちからやってみました。そこに1冊のノートを置いて、こたつを使った人はそこにメッセージを残していける仕組みにしてみたんです。思いの外、そのノートが好評でした。誰が書いたかもわからないメッセージに返信したり、自分からコミュニケーションを投げかけてみたり。日常の中にポンッと非日常を作り出す事で、普段できないコミュニケーションや活動ができた。そんな仕掛けをこれからも仕事の中でたくさん作れないかなぁと考えています。
こたつ設置の様子

普段の提供するカリキュラムの中でも、まちあるきでいわきの歴史や文化を知っていけるようなものにしてみました。いつもの道も、ちょっとした仕掛けで楽しくなる・解像度が上がるみたいな経験をスクエアを利用しているメンバーさんにも伝えていけたらいいなと思っています。

今後の展望として、スクエアが入居している建物「あらたな」全体を美術館にしてみたいなという思いがあります。展示や運営を通じて、地域の方との交流拠点になって、スクエアが今よりももっと地域に開かれていけたら。そういうかたちで、どんどんいわきと福祉の世界を広げていきたいなと感じました。

最近は、演劇や自己表現などいろいろな芸術活動をしている地域の方に出会う機会もあって、人との出会いがアイディアを生んで、それをやってみようと思わせる原動力だと感じています。
そういう環境の中に自分がいると、視野も広げられて、どう支援やまちづくりに活かせるかな?と日々刺激をもらえる。これからも福祉・文化の両方の視点を持った自分で、その親和性を体現していきたいなと思います。

PROFILE
渡邉 瞳子
渡邉 瞳子

渡邉 瞳子(わたなべ・とうこ)
SOCIALSQUARE 上荒川店
スクエアクルー/産業カウンセラー/学芸員

1989年福島県いわき市生まれ。
いわき明星大学卒業後、いわき市社会福祉協議会にて7年間勤務。
地域で活動している様々な人たちの存在を知り、自らもまちづくりに参画したいと考えるようになる。2019年ソーシャルデザインワークス入職。
アートや文化を活用したまちづくりについて模索中。

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