障害福祉の環境をデザインすること

大学時代に建築を学び、現在は障害福祉の道を歩んでいる小松知寛。建築と障害福祉を「整理」というキーワードで結びつけ、これからの未来を展望しています。

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ソーシャルスクエアという地域に開かれた「現場」で、障害福祉に関わるスタッフは、どのような問題意識を持ち、あるいはどのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声を紹介していくのが「Crew's Voice」のコーナーです。
今回は、大学時代に建築を学び、現在は支援の傍らデザイン業務などにも関わるソーシャルスクエアいわき店の小松知寛。彼は、かつて学んだ建築と障害福祉を結びつけ、「整理」というキーワードで様々な問題を解決しようとしています。小松が目指しているもの。その理想を伺いながら、障害福祉の現在位置を探りました。

―今、取り組んでいること。自立支援の「環境づくり」について。

現在の担当は企業との対応がメインです。就職が近い人を担当することが多いので、実習のセッティングをしたり、仕事が始まる前の最終調整をしたり、すでに就職した人たちの定着支援をすることもあります。そこで感じるのは、少し厳しい言い方かもしれませんが、就職を目指す本人たちが、自分の長所や短所を理解し、企業側にどのような合理的配慮を求めるかを、自分で説明できないといけないということです。
もちろん、説明するのが難しい人もいますし、そういう人たちのために私たちの存在があるのですが、人生の最後までわたしたちが付き添うわけにはいかないので、やはり自立、自分たちだけで問題解決していくことが目標になります。最近では「社会のほうに障がいがある」という言われ方もしますが、社会のほうも、障がいのある方、個人のほうも互いに歩み寄らなければいけないと思いますし、そのためには、やはり障がいを持つ人たちに、まずは「自分を知る」機会を作ることが第一歩です。カリキュラムをつくるにあたっても、そこを一番大事にしています。
これは障害福祉に限ったことではありませんが、自分は何がしたいのか、そのためには何が必要なのかを考える機会を作り、目標を達成するためにやるべきこと、求めていくことを論理づけていく必要があると思っています。論理づけて考えるというのは、自分が建築を学んできたからということもあるかもしれません。フィールドワークで土地を知り、周辺環境や歴史を知ることを通じて深堀していく。そういう考え方が、現在もアセスメントやヒアリングの場で役に立っているような気がします。
ですから、今も建築に関わり続けているという感じがします。現代の建築には、建物そのものだけでなく、周辺の環境を作ることを求められていますが、今の仕事も、障がいのある方たちの自立を支援するという、個々の人に対するサービスだけではなく、事業所の環境や、その事業所を抱える地域という環境も含めて考えるようにしているので、「環境づくり」という意味では、学生時代も今も、同じテーマに取り組んでいるのかもしれません。

―「創造」のためのルールづくりは、「整理」していくことから

反対に、建築と福祉でもっとも大きな違いはアプローチの仕方です。建築は都市や環境から家族、個人を見ていくのに対し、福祉の場合は、個人から環境、地域を見ていくというように、真逆のアプローチなんです。そして、その「地域から個人を見ていく」という、ある意味で建築的なものの見方が、今の福祉には足りていないのではないかと感じます。そういう視点がなければ、福祉は経済的に取り残されてしまうでしょうし、社会の問題として認識されにくくなると思っています。
そういう意味では、福祉を、もっと社会のプラットフォームにしていかないといけないと思いますし、実際、福祉にはその可能性があると思っています。例えば「ごちゃまぜイベント」のように、うまくイベントの仕組みを作ることができれば、福祉の環境を変えていくためのプラットフォームになると感じています。1つプラットフォームができると「うちもやってみたい」というように、メソッドがどんどん外に波及していく。そうなって初めて社会が少しずつ変わっていくのだと思います。
福祉の問題を福祉当事者だけで解決しようという時代がありました。そういう時代だったし、社会が未成熟のままでは余計に分断を引き起こしてしまうこともあるので、過去の福祉を批判するつもりありません。現在は、社会の課題を社会で解決していこうという時代になってきています。時代に合わせて課題を解決していくということが必要です。
社会全体で取り組むということは、非当事者も巻き込んでいかなければなりません。その時に役立つのがデザインだと思っています。ぼくはデザインというのは「整理する」ということに近いと思っています。現在の福祉関係の法律は、一見綺麗に整理されているように見えますが、個人が押し込まれているようにも感じます。それにより支援を求めている方にも支援が届かないこともあります。それは過度の「整理」といっていいかもしれません。ですから、まずは社会のなかで「ごちゃまぜ」の状態を作り、地域と福祉が交わる場から整理していきたいと思っています。
その「整理」という考え方に基づけば、建築も福祉も、共通するものが多いと感じますし、整理していくということが、今後の自分の役割なのだと自覚するようになりました。障がいのある方個人から、あるいは地域から、両方からの視点を見失うことなく、多様な人たちが活躍できる環境をつくるアーキテクチャーでありたいと思います。
(ソーシャルスクエア|いわき店 小松知寛)
1990年いわき市生まれ。前橋工科大学大学院で建築・都市計画を学んだ後、ソーシャルデザインワークスへ。地域の企業との連携、就職後のサポートなど「就職」に特化した支援を担当している。大学時代の経験を活かし、現在は社内ベンチャーの設計研究室「K Design Lab.」を主宰し、会社の印刷発行物のデザイン業務を担当している。

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