そこにあなたがいる、それだけでいい。

奥田 峻史 ソーシャルスクエアいわき店 ソーシャルコーディネーター   ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で、障害福祉に関わるスタッフは、どのような問題意識を持ち、あるいはどのような理想を掲げて支援を行 […]

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奥田 峻史

ソーシャルスクエアいわき店 ソーシャルコーディネーター

 
ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で、障害福祉に関わるスタッフは、どのような問題意識を持ち、あるいはどのような理想を掲げて支援を行っているのか。クルーにインタビューをしてその声を紹介していくのが「Crew’s Voice」のコーナーです。
今回は、入社2年目。初年度で半年ずつ「自立支援」「就労支援」を経験してきた奥田峻史へのインタビューです。かつて大学で福祉を学んできた奥田。過去の学びと現場の実践をどのように結びつけ、どのように折り合いをつけ、社会の障害と向き合ってきたのか。1年の実践から出された「理想」についても語ってくれました。
 

—コミュニケーションと信頼関係

この1年、「就労支援」と「自立支援」を、ちょうど半々ぐらいの感覚で担当してきました。両方を経験できたことはとても大きかったですが、個人的には、自立の方が向いている気がします。就労支援の場合だと、より実際のビジネスシーンを想定しての訓練になりますし、受け入れ企業とのやり取りも多いのですが、自立支援は、日々の生活をいかに過ごすかについて、よりメンバーさんとじっくりと話す時間が長い気がします。
通常、ソーシャルスクエアのカリキュラムは自立訓練を終えてから就労移行に入っていくのですが、就労支援のカリキュラムに入ると、実際の会社での勤務を想定しながら、時に厳しい声をかけることもあります。でも、そういう厳しさや現実的な提案が力を発揮させるためには、自立訓練のプロセスで、通所してくるメンバーさんと信頼関係が築けていることが条件になると思うんです。
だから、自立訓練のプロセスでは、純粋に、誰かと話すことって楽しいんだな、コミュニケーションすることって大事なんだな、と感じてもらえれば十分で、一緒に何かに取り組んだり、おしゃべりしたり、趣味の話とか、そういう時間を通じて信頼関係を築いていくことを意識するようになりました。
 

 
自立とは言っても、そもそも一人だけで生活することってできなくて。だから自立というのは、誰かとともに生きることだし、その基本はコミュニケーションだと思うんです。だから、まずはコミュニケーションしながら、誰かとともに時間を過ごす。そういう時間に慣れていくことが必要だと思っています。それに、そのプロセスを、ぼく自身も楽しみたいと思っています。
それから、これはイメージにすぎませんが、自立の方がより哲学的というか、障害って何だろうとか、福祉ってそもそもなんだろう、というような問いが生まれることが多くて、そこが自分に合うなって感じています。例えば、「精神障害」という言葉を聞いて感じる一般的なイメージと、実際に精神障害のある人はまったく違うこととか。みんなに表情があって、本当に普通なんです。
だからぼくは「障害者を支援している」という感覚がなくて、ごくごく普通に付き合っているという風に日々の仕事を捉えています。誰しも「こういうところは配慮してほしい」とか、「これは苦手だ」ということがあるじゃないですか。だから、障害の有無はあんまり関係ないんじゃないでしょうか。
支援ということを意識すると、どうしても「支援者/利用者」という壁が生まれていきます。そうじゃなく、どこかでお互いに教えあったり、学びあったりするものですよね。どちらかの関係が固定されてしまうのがとても嫌で、自分が支援者ぶったようなことを発言したり考えてしまったりすることがあると、自分に引いちゃうこともあります。支援者にはなりたくないんです。
 

 

—選択肢を提示するという福祉

じゃあ、ぼくたちは何に専門性を見出していけばいいのかというと、ぼく個人は、いかに選択肢を出すか、いかに次の人につなげるか、この二つが大事だと思うんです。結局、ぼくたちは何かを提示することしかできなくて、最終的に選ぶのは本人です。だから、ぼくらは、あなたはこうすべきだ、こうしなさい、ではなくて、「こういうものもありますよ」と選択肢を出していく。そこで選択肢を出すことができないと、どうしてもこちらの選択したものにはめ込んでいくことになりやすいんです。
あなたはこうしなさい、こうすべきだということを繰り返していくと、本人の主体性を奪うことになってしまいます。だから本人の「やってみたい」という気持ちが起こるような選択肢を示さないといけなくて。そこで重要なのは「失敗してもいい」ということ。失敗を恐れてしまうと、どの選択肢も取れなくなってしまいますよね。だから、失敗しても大丈夫だし、たとえ失敗したとしても、「自分が選んだ」という経験が残るようにしないといけない。ぼくたちの仕事は、つまりそういう失敗が許される環境や場を作ることだと思います。
そして、そのような場を作ったうえで、次のプロセスにつなげていく。ここに通ってくる人たちの最終的な目標は働き続けることです。だから、自立から就労移行へ、そして就労から定着へという形で、次のセクションの人たちに切れ目なくつなげていくことが必要です。自分の担当で終わりではないんです。
 

 
選択肢を広げるという時に心がけていることが一つあって、それが自分の価値観を押し付けないようにすることです。ぼくが指摘した何かによって生きづらさを感じてしまったら意味がないですから。例えば、女性に対して「家事ができないダメだよ」とか言ってしまうのも、一個人の価値観ですし、そこにはジェンダーの問題とか、障害以外の外部の問題も絡んでくるので気をつけないといけません。
あと、話を聞く時に注意しているのは、こちらからガンガン行かずに、聞くことを重要視しています。それから、基本は相手の話を否定しないこと。間違ってもいいんだという環境があってこそ、本音を話してくれたり、信頼関係が生まれるはずです。その方とちゃんと向き合って、本人が言いたいことを言えているかを常に意識する必要があります。こっちはコミュニケーションが取れていると思っていても、相手から見たらそうじゃない場合もある。でもこれって、別に支援とかどうこうではなく、人と人のコミュニケーションで当たり前に必要なことだと思うんです。その意味でも、別に障害者かどうかって、あまり関係ないよな、とも思いますよね。
 

ー初体験のインパクトに「ごちゃまぜ」を忍ばせる

今年は、いわき市と一緒にごちゃまぜのスポーツイベントを開催することができました。障害者スポーツを体験できるイベントという趣旨で行われたんですが、企画段階で、障害者スポーツを体験、みたいな伝え方ではいけないと思っていて、それで、あくまでごちゃまぜのスポーツイベントの中に、障害者スポーツでもあるブラインドサッカーとフライングディスクを体験できるという形にしました。「障害者スポーツ」を意識しすぎると、障害のことに興味がある人たちしか集まってこないので。
障害とかに別に興味がなくても、体を動かすことが好きとか、みんなで楽しいことがしたいという人たちにも、必ずごちゃまぜの世界観は伝わると思ってるんです。そこで大事なのは「初めての体験」と同じタイミングで、「ごちゃまぜ」や「障害」というものを一緒に伝えていくということです。初めて何かを体験した時って心がすごく開かれている状態だと思うんです。だから、価値観が変わって、心が柔らかく開いている時に、自分たちのメッセージを伝えていくと、すごくポジティブなものとして見てくれるんじゃないかって。
初めてやる人たちのフレッシュな言葉で語られていけば、障害のことを全く知らなかった人にもすっと入っていくと思うんです。ぼくらのような人間がいくら社会とはこうあるべきだと言っても多くの人たちには伝わりませんし、衝撃やインパクトで心の膜みたいなものを破って、そのあとで伝えていく。そういうことをこれからも心がけたいです。
 


ー自分から発する、ということ

支援も地域づくりも、コミュニケーションも、大事なのは自分で発することだと思うようになりました。なんか「察してほしい」って言ってもやっぱり伝わらないし。自分から発信するからこそ、そこにフィードバックが生まれるんだと思います。障害のある人も、何らかの困難さを抱えている人も、ここがこんな風に困っているからこうしてほしいとか、ぼくはこういう苦手なものがあるからこう手伝ってほしいとか、色々言葉で発することで、より生きやすくなる。自分で発信することが難しいという人は、誰かの力を借りながら発信していく方法もあると思います。
これは、職場でも同じです。一人でできることって限られているから、自分はこんなことをしたい、これを手伝ってもらいたいと発信する場が必要だし、それと同じように、誰かが発する言葉を受信する必要もあって。だからチーム同士でコミュニケーションを深めておくことが必要なんだって思うし、実際そういう職場になっているので、仕事はすごくやりやすいです。
その一つが、定期的に行われている「ビジョンミーティング」で、業務の内容だけではなく、個人の思いとか、その人が本当にやりたいこととかを共有する時間になっています。誰かがボールを投げた時に、ちゃんとそれを受け取って投げ返せるように、その人のことを知る時間というか。
 

そういう時間があるおかげで、チームワークが確実に発揮されていると思います。ぼくたちの職場は、カリキュラムにしても、イベント企画にしても、個性やパーソナリティを生かすことが求められますが、だからこそ、他のクルーたちが何を考えて、何をしようとしているのかを理解しようと努めることが大事だし、それがサービスや支援の充実にもつながっていくんだと思います。
そのうえで、じゃあぼくはどういう理念を掲げていくのかというと、ちょっとまだ見えていないところもあるんですが、就労移行や自立支援といっても、「絶対に働け」「仕事をしないと価値がないんだ」ということではなくて、根っこには「生きているだけで価値があるんだ」ということを持ち続けたいと思います。社会の役になんて立たなくてもいいし、役に立ちたいと思ってもいいし、でも、生きている、そこにあなたがいる、それでいいんだと。そんなことをこれからも粘り強く伝えていけたらいいですね。
 
profile 奥田 峻史 Michifumi OKUTA
1994年生まれ。秋田県仙北市出身。社会福祉士。東日本国際大学で社会福祉を学んだ後、ソーシャルデザインワークスへ。学生時代は硬式野球部に所属。2年生の秋に野球部を辞め、趣味だった写真を活かし「境界線」というテーマで写真展を開催。その他の活動として、いわきユニバーサルマルシェ(被災障がい者自立支援促進事業)で取材・情報発信活動に携わる。

PROFILE
奥田峻史
奥田峻史

奥田 峻史(おくた・みちふみ)
SOCIALSQUARE 秋田山王店
スクエアマネージャー
社会福祉士/フォトグラファー

1994年生まれ。秋田県仙北市出身。東日本国際大学で社会福祉学を学んだ後、2017年新卒入社でソーシャルデザインワークスへ。支援業務の他、広報写真の撮影も行っている。フォトアート集団、PHOTO ART HEROESのメンバーとしても活動中。“健常者と障害者”“支援者と利用者”など、様々な“境界線”について考えた作品制作を得意とする。

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