チームの「幸せ」を支える
今回はソーシャルスクエア理事の今泉 俊昭をご紹介。15年以上福祉の世界で支援者として働き続け、2020年8月からソーシャルスクエアの採用・定着、育成からケアなど「人材」部分に携わるようになる。人事として3年間業務を遂行したこれまで、彼の考える人事の役割や想いとは?
今泉 俊昭(いまいずみ・としあき)
ソーシャルスクエア 法人理事(事業支援管掌理事)
ソーシャルスクエアという地域に開かれた現場で障害福祉に関わるクルーは、どのような問題意識を持ち、どのような理想を掲げて支援を行っているのか。その声をインタビュー記事で紹介していくのが「Crew’s Voice」のコーナーです。
全国エリアに広がる障害福祉サービス事業所SOCIALSQUARE(ソーシャルスクエア)は「ソーシャルデザインワークス」というNPO法人が運営している。今回はソーシャルデザインワークスの理事である今泉 俊昭をご紹介。15年以上福祉の世界で支援者として働き続け、2020年8月から法人の運営部分に関わり始め、現在は支援クルーの採用・定着、育成からケアなど「人事」部分に携わる。人事として3年間業務を遂行した彼が考える自身の役割や想いとは?
※掲載内容は取材当時のものです
人事としての「役割」と「幸せ」
—— 編集部:今泉さんはどのような役割を担っていますか?
障害福祉サービス事業所SOCIALSQUARE(ソーシャルスクエア)は福島県を初めに、兵庫県、熊本県、秋田県のエリアで展開しています(令和6年1月時点では8拠点)。私は、その運営法人であるソーシャルデザインワークスの理事という役割をいただいており、主に支援クルーの採用や育成など「人事」の部分を担当しています。
現在ソーシャルスクエアの支援クルーは60名ほどいますが、採用後も支援クルーとして定着してもらうように「育成・ケア」はとても重要だと思っています。今は人材を採用することが厳しくなってきている時代なので、採用後は配属された拠点に丸投げではなく、大事な人材を資本と捉えてちゃんと人事担当として関わり続けていくことが、組織にとっても重要だと考えています。
具体的な業務の内容としては、人材育成に関する研修の仕組みを作ったり、クルーの悩み相談を受けたりすることが自然と自身の役割になっていましたね。支援者だって支援が必要な時があって、そこができていないと離職者も多くなってしまうと思います。”支援者の支援” が私のやりたいことの一つですね。
—— 編集部:人事を任される前はどんな事をしていましたか?またガラリと仕事内容が変わったと思いますが、自分の中で変化はありましたか?
私がソーシャルスクエアの人事に携わるようになったのは2020年の夏頃からで、それまでは就労移行支援や自立訓練(生活訓練)のサービス管理責任者として主に支援業務を行っていました。
なので、人事を任された当時は戸惑いがありましたよ。何せ、私はソーシャルスクエア以外の別事業所やジョブコーチ(職場適応援助者。対象の障がい者が就業するにあたって、職場に定着して長く働けるように支援する)の支援経験を含めると、15年以上「支援者」として障がいのある方の支援ばかり向き合い続けてきたのだから…、いざ支援の現場から離れて法人の人事業務ってなった時に「なにをしたらいいんだろう」って正直思いました。
でもある日、今までとやることは何も変わらないんじゃないかってことに気がついたんですよ。だってご利用メンバーさんも人だしクルーだって同じ”人”ですもんね。
日常の支援で当たり前にやっていることって、身近では当たり前じゃなかったりすることが結構あるなと気がついたんです。例えば、ご利用メンバーさんには傾聴がしっかりできて、困り感だったり、思いを聞くことができるのに、身近な同僚の思いをちゃんと聞けていないとか。
ご利用メンバーさんが就職したら定着支援をするのに、なぜスクエアの支援クルーの定着支援ってないんだろう?って気がついた時に、「あ、それをやればいいんだ」と思ったのです。
私自身、福祉での長い経験から感じることとして、この業界の魅力は「人を人として大事にしていること」だと思うんですよ。対人援助と言われている業務では、目の前のご利用メンバーさんの事を第一優先に考えてどんな支援ができるかを考え続けていると思います。だけど、対人援助は感情労働でもあるので、支援者は多くのストレスに晒されることがあり、ご利用メンバーさんの支援の方針の食い違いなどから、対立してしまうことだって珍しくありません。ご利用メンバーさんもスクエアの支援クルーも同じ人でありながら、接し方が違ってしまう場合があるのです。人との関係性のメンテナンスは福祉の業界に限らず重要ですよね。
—— 編集部:どんなことを大事にしていき、どんな法人にしていきたいと思っていますか?
「すべての仲間の幸せを追求すると共に諦めのない社会を創る」
この理念にある”すべて”の中には、障がいのある方もソーシャルスクエアで支援をしているクルーもすべて含まれています。
私自身が人を大事にするという経営を心掛け、支援クルーが働くことにやりがいや楽しさを感じてもらうためのサポートをする、それも自分の役割なんだと思っています。そして、スクエアクルーが生き生きと働くことができていたり、笑顔になったり、成長した姿を見ることが、私の「幸せ」につながっているのです。
「ごちゃまぜ」が多様性を生み出し、支援の質を高める
採用面接の中でよく聞かれる質問の一つに「自分は福祉が未経験で福祉の勉強などしてこなかったんですが、それでも大丈夫ですか?」という質問を結構いただくんです。
確かに、勉強をして福祉の専門性を高めることは重要です。スクエアクルーの中にも資格を取得されているクルーもたくさんいます。一方で福祉未経験者も同じくらいいると思います。
スクエアクルーは本当に多種多様で、福祉専門職もたくさんいますが、全く異なる職種を経験して転職されてきた人、大学などでコミュニティーデザインを学んできた人、デザイナーや海外で活動していた方など…副業でいろんなところと関わっている人、小さいお子さんの子育て真っ只中な人などたくさんいますね。
(他にも様々な働き方を実現している支援クルーがいます▶️CREW's VOICE)
私としては、様々なバックグラウンドや自由な発想を持つ人がいた方が様々な強みを発揮できて、結果的に支援の質を高められるとも思っているので、福祉の知識の有無はそれほど重視はしていないかもしれません。むしろ専門的に知識が偏りすぎてしまうと、視野が狭まってしまったり、わかった気になっちゃうって事がよくあるので、正解のない支援の現場では「最適な支援は何か?」をチームで考え続けることが大事だと思っています。だからこそ色々な価値観を持った人が組織の中にはいて、組織の中の「多様性」は大事にしたいと思っています。ソーシャルデザインワークスではごちゃまぜといった考えを謳っているわけですし、そもそも組織が「ごちゃまぜ」になってなかったら説得力ないなって思いますよね。
【ごちゃまぜ】
障害の有無、国籍、年齢、性別、文化など異なる人が存在する社会を楽しむための自然な機会を「ごちゃまぜ®」と題し、自分たちがやりたいと思え、みんなで楽しめるまちづくり企画を地域の中で運営しています。その地域にとって大事なことをその地域の人たちと共創しています。
築かれた文化を大事に|フラットな関係性
私はソーシャルデザインワークスで築かれた文化を大事にしたいと考えていて、その文化の一つに「フラットな組織」があると思っています。
クルーの中には「サービス管理責任者」や「マネージャー」など役職を持つ人がいますが、クルー内で役職名で呼ぶ人はいません。代表の北山さんのことも、全員「北山さん」と呼んでいますしね。私は年齢とか経験年数とかの上下関係はなく、フラットな関係性がとてもいいなと思っていて…、私自身も「理事」という立場になりましたが、役職名とか肩書きとかはあまり意識していません。「理事」というのも単なる役割であって、上下を示すものではないと思っています。そういった肩書きを気にせずに、自分の思うことを伝えることができ、自由な発想が飛び交うほうが、組織にとって良い状態で、やりたいことを達成しやすい環境になるんじゃないかなと思っています。
もう一つの文化でもある「福祉の発想に捉われない自由な発想」は自分にとっても良い刺激になりますね。長年福祉業界にいたので。
私はいつまでも新しいことを知って挑戦し続けるためにも、好奇心は大切にしたいし、様々な人の価値観や考えを受け入れられる人間でありたいと思っています。また、「すべての仲間の幸せを追求すると共に諦めのない社会を創る」という考えを要に、地域に還元する活動も積極的に行っていきたいですね。
今泉 俊昭(いまいずみ・としあき)
理事/クラフト作家
1977年神奈川県生まれ。大学卒業後、住宅メーカーで5年経験を積んだ後、社会福祉法人に入職。企業での経験を活かして、ジョブコーチとして3年間就労支援を経験。その後、就労移行支援事業所で8年、就労支援員、サービス管理責任者として当法人でも実践を積み、2020年8月から法人の理事として運営管理に関わり、現在はソーシャルスクエアの支援クルーの採用・定着、育成からケアなど「人事」の部分に携わっている。